達引たてひき)” の例文
猛烈な達引たてひき鞘当さやあての中に、駒次郎が次第に頭をもたげ、町内の若い衆も、勝蔵も排斥して、お勢の愛を一人占めにして行く様子でした。
噺もまた巧く、「一心太助」だの「祐天吉松」だの講釈種のそれも己の了見そっくりの達引たてひきの強い江戸っ子を主人公とした人情噺がことに巧かった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
出生うまれは私、東京でも、静岡で七つまで育ったから、田舎ものと言われようけれど……その姉さんを持ったおかげに、意地も、張も、達引たてひきも、私は習って知っている。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これから母の教えが守り切れず、大伴の道場へ切込む達引たてひきのお話、一寸ちょっと一と息つきまして申し上げます。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
赤坂の菩提所ぼだいしょへ仏参の帰り途によい所へ来合せました。天下の御旗本ともあるべき者が町人どもを相手にして達引たてひきとか達入たていれとか、毎日々々の喧嘩沙汰はまこと見上げた心掛けじゃ。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この映画の中に現われている限りの出来事と達引たてひきとはおそらくパリという都ができて以来今日に至るまでほとんど毎日のようにどこかの裏町どこかの路地で行なわれている尋常茶飯さはんのバナールな出来事に過ぎないであろう。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
浜名屋の冷飯ひやめし食い、飛抜けた道楽者で、親兄弟も構い付けない代り、女の子の達引たてひきには不自由をしない男、二十七八の若い燕型つばめがた、これは一番疑われそうな人間です。
引被ひっかぶって達引たてひきでも、もしした日には、荒いことに身顫みぶるいをする姐さんに申訳のない仕誼しぎだと、向後きょうご謹みます、相替らず酔ったための怪我にして、ひたすら恐入るばかり。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今さらに達引たてひきの強いあの三人の旦那衆の心意気が差しぐまれるほど嬉しかった。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
眞弓 赤坂の菩提所ぼだいしよへ仏参のかへり路、よいところへ来合せました。天下の御旗本ともあるべき者が、町人どもを相手にして、達引たてひきとか達入たていれとか、毎日毎日の喧嘩沙汰、さりとは見あげた心掛ぢや。
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「ちょっと、小児も小児だし、……前刻さっきから、気になるが、とにかく、色事の達引たてひき中だ、なあ、まあ。……それに、そんな事をしてくれては不可いけないじゃないか。見ていられない、……何を食うんだ。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それだものこのくらいな達引たてひきはしかねめえ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)