遊惰ゆうだ)” の例文
「心得ておる。世を挙げて滔々とうとう遊惰ゆうだにふける折柄、喧嘩を致すとは天晴れな心掛けと申すのじゃ。もそッと致せ。見物致してつかわすぞ」
上方から西は天産に富み、風光はよし、文化もひらけ、従って遊惰ゆうだに流れる風も多分にあるが、智恵の光が人間をみがいておる。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勿論、淫魔いんまを駆って風紀を振粛し、且つ国民の遊惰ゆうだを喝破する事業じゃから、父爺おやじも黙諾の形じゃで、手下は自在に動くよ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分たちでやって見たが、ねっから遊惰ゆうだな男たちには、堅い土がいくらも掘りかえされないので、大っぴらに父の留守をねらっては払いさげをやる。
太抵は労働を避けて些細ささいな物質的贅沢ぜいたくの中に遊惰ゆうだな日送りをしようとすることが動機であるから、政府は世の社会改良家、教育者、慈善家と共に
私娼の撲滅について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
なるほど、エロスの神は遊惰ゆうだをこのみ、そして遊惰のためにのみ造られている、と言われる。しかし危機のこの点では、このおそわれた男の興奮は、生産にむかっていた。
もしこの事がなかったなら、わたくしは今日のように、老に至るまで閑文字かんもじもてあそぶが如き遊惰ゆうだの身とはならず、一家の主人あるじともなり親ともなって、人間並の一生涯を送ることができたのかも知れない。
十六、七のころ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ついには遊惰ゆうだの長雨に腐れ果ててしまうのだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
不労遊惰ゆうだの悪習とをなげうって、その全財産を社会の共有に委すると共に、一般の文化的労作者の間に没入し、労働者もまた資本家に盲従する奴隷心と
階級闘争の彼方へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
「これでは、領民どもの遊惰ゆうだを、御奨励になるようになりはしますまいか。——いかに、年に一度の祭とはいえ」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だからそこで、夏がすごしやすい生産的なものになるためには、あるそう入が、多少の即興的生活が、遊惰ゆうだが、遠国の空気が、そして新しい血液の供給が必要なのである。では旅行だ。
悪政のもと奢侈しゃし遊惰ゆうだ、無自覚、いったいこれは何たる世間だ。——いや難しかろう、女子にはむりなはなし。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわゆる女房泣かせの極道ごくどうをし尽くし、大酒と遊惰ゆうだに健康をそこねて、もう数年前に——藤吉郎がどこか戦場に出ている留守の間に、中村の茅屋あばらやで病死したというのが
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
初めから秘密にはかりごとを抱いているので、そこでは黄蓋と同心の甘寧かんねい闞沢かんたくなどが、敵の諜者たる蔡和さいか、蔡仲を巧みにとらえて、わざと酒を酌み、遊惰ゆうだの風を見せ、そしていかにもまことしやかに
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしこういう四囲の状態が生じなかったら、美しき新妻との生活に、断ちきれない未練も持ち、生来の遊惰ゆうだかんに馴れた癖がつい意志をにぶらせて、遂に、千載せんざいの機を逸してしまうかもしれない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前将軍家重いえしげ遊惰ゆうだなこと。今の十代家治いえはるの悠々逸楽いつらく
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)