辻馬車つじばしゃ)” の例文
ルイ十八世が国外に亡命せんとする日、それを辻馬車つじばしゃの中に助け入れたので公爵となされたアヴァレー侯爵が、次のような話をした。
いよいよ頼んで置いた辻馬車つじばしゃが町の並木の側に来て、仮にまとめた荷物を送出すという前に、岸本はにがい昼寝の場所であった部屋の寝台の側へも行き
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
博士はくしはアダイ署長しょちょうがよんだ辻馬車つじばしゃに乗って、署長といっしょにバードックの警察署けいさつしょにいそいだ。
「三台の辻馬車つじばしゃで越していらっしゃいました」と、うやうやしくさらを差出しながら、侍僕頭がしたり顔に、——「自家用の車はお持ちでありませんし、家具もごくお粗末そまつで」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
相変わらずの煉瓦れんがや石や石灰、相変わらず安店や酒場から出る臭気、相変わらずひっきりなしに出会う酔漢、ポーランドの行商人、半分こわれかかったような辻馬車つじばしゃの御者。
往来おうらいへ出ると、書記は辻馬車つじばしゃんで、わたしたちに中へとびこめと言いつけた。きみょうな形の馬車で、上からかぶさっているほろの後ろについたはこに、御者ぎょしゃがこしをかけていた。
周囲の人々から彼が聞き得たことは、辻馬車つじばしゃに乗せられて夜中にフィーユ・デュ・カルヴェール街に運ばれてきたということだけだった。
街路もまだ響の起らない時で、わずかに辻馬車つじばしゃを引いて通る馬の鈴のと、町々をいましめて歩く巡査の靴音とが、暗いプラタアヌの並木の間に聞えていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ちょうどその時辻馬車つじばしゃからおりて女と腕を組みながら門の下へはいって来た七等官のクリュコフも——誰も彼も、つまり八人ないし十人の証人が口をそろえて証言してるんだ。
彼女かのじょ公爵夫人こうしゃくふじん一緒いっしょ辻馬車つじばしゃに乗って、どこかへ出かけるところであった。そのかわりわたしは、ルーシンに会った。もっともかれは、ろくろくわたしに挨拶あいさつもしなかったが。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
右の推測をなお確かならしむることには、ボタンをはめてる男は川岸通りを通りかかったから辻馬車つじばしゃみぎわから見つけて、御者に合い図をした。
ガール・ド・リヨンとは初て彼が巴里に着いた時の高い時計台のある停車場ステーションであった。そこで彼は倫敦行の絹商に別れ、辻馬車つじばしゃを雇って旅の荷物と一緒に乗った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ほら(と彼はポケットを探って二十カペイカつかみ出した。ちょうど持ち合わせがあったので)。これで辻馬車つじばしゃでも雇って、家まで送っておもらいなさい。ただ住所だけわかればいいんだがなあ」
今更それを返せと言ったところで仕方がない。官営馬車はもうそこにいず、またあの辻馬車つじばしゃは遠くに行っていた。その上彼女は金を返しもすまい。
すなわち、六月六日の夜フィーユ・デュカルヴェール街へマリユスを乗せてきた辻馬車つじばしゃを見いだすことができた。その御者の言うところはこうであった。
サン・ヴィクトルのほりや植物園などに沿っている古い狭い街路は、駅馬車や辻馬車つじばしゃや乗合い馬車などの群れが毎日三、四回激しく往来するために震え動き
「さあ手紙だ。やることはわかってるだろう。辻馬車つじばしゃが下にある。すぐに出かけて、すぐに帰ってこい。」
ただ一度、彼が例のとおり出かける時、彼女は辻馬車つじばしゃにのってある小さな袋町のかどまで連れてゆかれたことがあった。その袋町の角にはプランシェットの行き止まりという札が出ていた。
物をつめ込んだ行李こうりを運べば運送屋がいるし、運送屋が来ればそれが証人となって足がつく。それでただ、バビローヌ街の出口に辻馬車つじばしゃを呼んできて、それに乗って立ち去ってしまった。
しかし、ジャヴェルが捕虜らを三つの辻馬車つじばしゃに乗せてその家から出て行くや否や、マリユスの方も外に忍び出た。まだ晩の九時にすぎなかった。マリユスはクールフェーラックの所へ行った。