“辞(や)” の例文
旧字:辭
「残念だが、しかしそうした因縁だった人も、一度自分の決めたことだから後宮にはいることとは違った尚侍(ないしのかみ)の職は辞(や)める必要がない」
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「だから僕も田舎を辞(や)めて来たような訳さ。それに、まあ差当りこれという職業(しごと)も無いが、その内にはどうかなるだろうと思って——」
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
孔子は子路ほど早く見切をつけず、なお尽(つ)くせるだけの手段を尽くそうとする。子路は孔子に早く辞(や)めてもらいたくて仕方が無い。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
或るお屋敷で、主人公が小間使(こまづかい)をさがしているのです。尤(もっと)も、前にいた小間使の娘さんは、僕が買収して、親の病気だと申立てて辞(や)めさせたんです。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
辞(や)めてから、砂山探偵事務所に這入りまして、俗にいう私立探偵ちゅう奴で、名探偵などとは飛んでもない。
それで実験技術としては満更(まんざら)縁のない話でもないので、私の所の講師のT君が私の方を辞(や)めて、その研究所へはいって、専心その方面の仕事を始めることになった。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
役人にしてその位地が堅固(けんご)なりと思うあいだは随分勝手(かって)な口をきき、いつ辞(や)めても天下を濶歩(かっぽ)する意気込みを現すも、一たび辞職を勧告さるればたちまち態度を変え
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
突然なので、院中のだれかれも、何が、不平か、何で辞(や)めたのか、かれの心を、知るに苦しんだ。
この吉田の父が辞(や)める時に、退職金に千両くれたんだそうです。その頃の千両といえば大変なもんでしょうからね。それが今日の吉田財閥の基をなしているんです。呵々。
私は隠居ではない (新字新仮名) / 吉田茂(著)
やっている中に、御承知の様に時局はどんどん変って行き、私は大学を辞(や)める事になった。
帝大聖書研究会終講の辞 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
タイピストを辞(や)めさせてまで世話する筋合いがドコに在るか存じませんが……ホホ……それで、わたくしは決心を致しまして、あの宿の主人と相談を致しまして、ヨリ子を今朝(けさ)から当宅(たく)へ引取って
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
待ち受けていた明子と磯子に堂島の社を辞(や)めたことを話すと
越年 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
玉子は間もなく学校を辞(や)めて神戸の方へ帰って行ったから、この婦人との親しみは半歳(はんとし)とは続かなかったが、神戸から一二度手紙を貰(もら)ったことを思出した。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あの年の六月には、先生も大学の方をお辞(や)めになったように聞いていますが。」と半蔵も言って見る。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一方には学校を控えていたから、思うように仕事も進捗(はかど)らなかった。全く教師を辞(や)めて、専心労作するとしても、猶(なお)一年程は要(かか)る。彼は既に三人の女の児の親である。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すると宿屋で断られて、泊る所が無かつたとか。其様(そん)なことが面白くなくて長野を去るやうになつた、なんて——まあ、師範校を辞(や)めてから、彼の先生も勉強したんでせう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
種々(いろいろ)な困難は、猶(なお)、私の前に横たわっていた。一方には学校を控えていたから、思うように自分の仕事も進捗(はかど)らなかった。全く教師を辞(や)めて、専心従事するとしても、猶一年程は要(かか)る。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と言われて、原は淋(さび)しそうに笑っていた。有体(ありてい)に言えば、原は金沢の方を辞(や)めて了ったけれども、都会へ出て来て未だこれという目的(めあて)が無い。この度の出京はそれとなく職業を捜す為でもある。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)