つま)” の例文
そのうちにあまり用心しすぎたせいだろう、畳の破れめにでもつまずいたらしく、どさどさとよろけざま、なにかを踏みぬく激しい音が聞えた。
泥棒と若殿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「いや、そんな事を遠慮する奴があるものか。斯うなればつまづく石つころも手掛りだ、早速宗太郎の樣子を探つて見よう」
うしても其処そこを通らなければ出られないから、安田はわざと三人の刀のこじりを出して置きますと、長い刀の柄前つかまえにお隅がつまづきましたのを見ると
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何か小石のようなものにつまずいたような気がすると、新月がたの、きれ傷が、よく白いすねに紅い血を走らせた。
天狗 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
岩につまずき、かずらに引っからまり、山中をかけずり回り、身体綿のごとくなってへたばる。兎は遂に行方不明。
凌ぎつゝ勢ひをつけてくだる下りてやゝ麓近くなりしとき篁村小石につまづきはづみを打て三四間けし飛びしが鞍馬くらま育ちの御曹子を只散髮ざんぎりにした丈の拙者なればドツコイと傘を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
暗がりをば手探りで、椅子につまずきもしずに、用箪笥の方へまっすぐに歩いて行った。
空家 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
彼は女に話しかけるのに夢中である。従って彼のニッカーボッカーを穿いた両脚は勝手に動いて奇術師のようにふらふら調子を取りながら時々小石や小径のふちの雑草の根本につまずいて妙に曲る。
決闘場 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ただ人の子をつまづかせるものがあるだけなのです。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
僕はつい用意の足りないつまずき方をしたのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
片付大宮にて親分に追付んと鷲の宮なる杉林へ來懸きかゝりしが死骸しがいつまづき是は何者なるやと能々見るに親分おやぶん金兵衞の死骸なれば藤兵衞は大いに驚き先生々々こゝに親分がきられてときくより掃部も駈寄かけよつて能見れば正敷金兵衞の死骸なり南無なむさん何者の仕業しわざならんと三人は切齒はがみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「だいぶ以前から知っては居るんです。しかし……。」と言って、つまずいたように黙り込んでしまった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
すると甚藏は是を追駈おっかけようとして新吉につまづきむこうの方へコロ/\と転がって、甚藏はボサッカの用水の中へ転がり落ちたから、此の間に逃げようとする。又うしろから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おかしなことだ、啓三も口で云っているのとは反対に、仕事はいつもつまずきを繰り返している。
ばちあたり (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
左手に赤城あかぎ榛名はるなの山を眺め、あれが赤城の地蔵岳だの、やれあれが伊香保いかほの何々山だのと語りながら馬を進ませたが、次第に路が嶮岨けんそになって、馬がつまずいたり止まったりすると
おらア泥坊だと思って泥坊々々とがなると、突然いきなり脇差を引抜いて追掛おっかけて来たから、逃げべいとすると木の根へつまずき、打転ぶっころがると、己の上へ乗し掛り殺すべえという訳だ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)