謡曲うたひ)” の例文
旧字:謠曲
謡曲うたひの好きな方は、画もよくお解りだから頼もしい。なに、画は屹度きあげますよ。それぢや今日は一つ聴いて戴きますかな。」
はたしてさけあまたえしゆゑ鵜飼うかひ謡曲うたひにうたふごとくつみむくひのちわすれはてゝ、おもしろくやゝ時をぞうつしける。
謡曲うたひが済む頃になると、其家そこせがれが蓄音機を鳴らし出す。それがまた奈良丸の浪花節なにはぶし一式と来てゐるので、とても溜つたものではない。
「なに、謡曲うたひがお好きですつて。」満谷氏は飴ん玉のやうにつるつるした、そしてまた飴ん玉のやうに円い頭を掌面てのひらで撫であげる。
変だなと気がいて、色々な物識ものしりに訊いてみると、謡曲うたひのなかには健康にためにならないのがあるといふ事が判つた。
自分の隣家となり謡曲うたひの師匠が住んでゐる。朝から晩まで引切しつきりなしに鵞鳥の締め殺されるやうな声で、近傍あたり構はずうたひ続けるのでそのやかましさといつたら一通ひととほりの沙汰ではない。
短銃ピストルは弾一つで人一人しか殺さないが、騒々しい音曲は近所隣りの良民をすつかり狂人きちがひのやうにしてしまふ。実際自分などは下手な謡曲うたひを聴かされると気が荒くなつて直ぐに決闘でも申込みたくなる。