いさか)” の例文
彼の家の中では万事がうまくいっていなかった。彼はいつも家事女らといさかいばかりしていたし、雇い人らからはたえずだまされ盗まれていた。
この珍しいいさかいがあったのは、昼食ちゅうじきの時刻の直前で、貞之助も、悦子も知らず、お春も折柄使いに出ていた間のことであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何かしら人間間のごたごたしたいさかいを止めさして、互に手に手を握り合わせるようなことを、自分の力でしてみたくなった。
電車停留場 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
二郎は邸を見廻って、強い奴が弱い奴をしえたげたり、いさかいをしたり、盗みをしたりするのを取り締まっているのである。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
他人ひとが悩んでいたり、不幸であったりすると、すぐそのいさかいの中に飛びこんで行きたくなる性癖くせのセエラでした。
「父兄と、いさかって家出したとは、真赤な譃、ちゃんと、しめし合せて、御家老の秘事でも、探ろうという所存——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
もっとも、ときどき女の子同志で小さないさかいをし合っても、いつも私がお竜ちゃんの味方をするので、すぐそれはおしまいになった。それは初夏の日々だった。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
滅法可愛がつたさうで、あんまり可愛がり過ぎて、母親のお宮といさかひが絶えなかつたと言ひます。あんな綺麗な繼娘は、娘のやうな氣がしなかつたんでせうね
満枝が手管てくだは、今そのおもてあらはせるやうにして内にこらへかねたるにはあらず、かくしてその人といさかふも、またかなはざる恋の内にいささか楽む道なるを思へるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「それはお前の考えちがいですよ、あんないやらしいいさかいはわたしだちは今日はじめてしたんですよ、それをお前が見たことがあるなんてことはありません。」
みずうみ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
毘舎離の女他国へ嫁して姑といさかい本国へ還るに、阿那律と同行せしを、夫追い及んでなじると、〈婦いわく我この尊者とともに行く、兄弟相逐うごとし他の過悪なし〉と
このいさかいは、ソフィヤ夫人が直接トルストイの出版者であったという事情から、益々紛糾した。
ジャンの物語 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
僕は姉が父とそんな深いいさかいをしたということも知りませんでしたが、ある朝僕が起きて見たら、家の中がいつもと違っているんです。母も座敷にいなければ、父もいません。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
私と父とは、忽ちいさかひ、忽ち和解し、誰よりも深く憎み、誰よりも深くゆるした。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
そのとき室の入口に、なにか騒がしいいさかいが始まった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
人びとのいさかふ目ざしを見しわれは。
林の奧から、ふと、人のいさかひ合ふ聲がきこえて來た。おえふは惡いときに來合はせたとおもつた。
ふるさとびと (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
要するに、この姉妹たちは仲が好いので決していさかいにはならないのであるが、冷静に観察すれば、雪子と妙子の間には可なり険しい利害の対立が潜んでいるのであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その間に立って、子供の面倒をみながら、女といつもいさかいばかりしながら、女と別れることも出来ないで、じっと我慢していた吉川さんの心を思うと、僕は堪らない気がするよ。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
こんどに限って彼女は、単にクリストフを無視するようなふうをして、他の二人の連れを相手にいかにも上機嫌きげんに振舞っていた。心ではそのいさかいを別に怒ってもいないかのようだった。
電話を待つ緊張と、畳廊下での親たちのいさかいの印象とが宏子に人と喋るのがいやな心持を起させているのであった。宴会があって、泰造は一時間ばかり前出かけた。それより前に田沢は帰った。
雑沓 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ただかみしもも酒を飲んで、奴の小屋にはいさかいが起るだけである。常は諍いをすると、きびしく罰せられるのに、こういうときは奴頭が大目に見る。血を流しても知らぬ顔をしていることがある。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのことが原因で奥畑とちょっとしたいさかいをし、電話が懸ってもねて出なかったり、わざと会う機会を与えなかったりしたことがあったが、あまり奥畑の気のみ方が真剣なので
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
けれども彼らはたがいにき始めていた。小さないさかいは友情を維持するものだというのは、誤りである。クリストフは非道な態度をとるようにオットーから仕向けられるのを恨んでいた。