見損みそこな)” の例文
「そうかい。さよなら。えい畜生ちくしょう。スペイドの十を見損みそこなっちゃった。」と鴾が黒い森のさまざまのどなりの中から云いました。
若い木霊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「君のように計画ばかりしていっこう実行しない男と旅行すると、どこもかしこも見損みそこなってしまう。つれこそいい迷惑だ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いずれ結構上〻じょうじょうの物は少い世の中に、一見損みそこなえば痛手を負わねばならぬ瀬に立って、いろいろさまざまあらゆる骨董相応の値ぶみを間違わず付けて
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「申さいでか。突いて来た刀を前に進んではずし面を打った刀、何と御覧ぜられし、老眼のお見損みそこないか」
彼奴あいつはあんな奴ですよ。畜生ちきしょう人を見損みそこなっていやがるんだ」お島は乱れた髪をかきあげながら、腹立しそうに言った。そしてはずんだ調子で、現場の模様を誇張して話した。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ばかな事を言ふな。一つ目小僧なんぞと云ふものがあるものか。お前が見損みそこなつたのだ。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
……何、昨夜ゆうべは暗がりで見損みそこなったにして、一向気にも留めなかったのに。……
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「——見損みそこなったわえ。年こそ寄れ、頼みある者とも思うたればこそ、一ノ宮の要害をあずけおいたに。……まだ籠城ろうじょうも半月か二十日はつかともぬうちに、弱音よわねをふいて、これへ逃げ参ろうとは」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「殿様ッ! 失礼ながら駒形の与吉を見損みそこないましたネ。こんなことを、筋の違うあんたんとこへ持ちこんで、それでいくらかにしようなんて、そんなケチな料簡の与吉じゃアございません」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
民藝に囚われていては、かえって民藝を見損みそこなう。
改めて民藝について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「あの男と一緒になったのが、私の間違いです。私の見損みそこないです」お島は泣きながら話した。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかも普通の落ち方ではない。はるかこなたの人後じんごだから心細い。葬式の赤飯に手を出しそくなった時なら何とも思わないが、帝国の運命を決する活動力の断片を見損みそこなうのは残念である。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「先づ町奉行衆まちぶぎやうしゆうくらゐの所らしい。それがなんになる。我々は実に先生を見損みそこなつてをつたのだ。先生の眼中には将軍家もなければ、朝廷もない。先生はそこまでは考へてをられぬらしい。」
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
さぞこの俺をうらんでいるだろうな。じっさい、あの喬之助だけは見損みそこなった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ときどき、お終いに来て笑い返して出て行った喬之助のことが、誰かの胸へ帰って来て、ふっと気味の悪い沈黙の種となった。何だか、あの喬之助を見損みそこなっていたようにも考えられるのである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「ううむ、見損みそこなったかな——」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)