蜚語ひご)” の例文
貨殖かしよくせわしかった彼女が種々いろいろな客席へ招かれてゆくので、あらぬ噂さえ立ってそんな事まで黙許しているのかと蜚語ひごされたほどである。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
関東筋でも躍起になって探りを入れたんだが、そのうちにバッタリ評判を聞かなくなったから、流言蜚語ひごだったんだろうで済んでしまった。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
蜀の実情は、魏軍の目ざましい進出に対して、たしかに深刻な脅威をうけ、流言蜚語ひごさかんに、今にも曹操が、蜀境を突破してくるようなことを流布るふしていた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
流言蜚語ひごの伝播の状況には、前記の燃焼の伝播の状況と、形式の上から見て幾分か類似した点がある。
流言蜚語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
若い者をそそのかし、蜚語ひごきちらして、忠誠も御恩報じもないものだ。ポローニヤス、君の罪は、単に辞職くらいでは、すまされません。わしは、君を見そこなった。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
續いて今度の歸國、瀬戸内海は船で通すにしても、藝州と防州の沖を、無事には通れまい——と言つた蜚語ひご流説が、早耳のガラツ八を通して、平次の耳へも聽えて來ました。
流言蜚語ひごは間断なく飛んで物情恟々きょうきょう、何をするにも落付かれないで仕事が手に付かなかった。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
網の目のように入り乱れたその騒々しい小路は、流言蜚語ひごで満たされた。人々はできるだけの武装をした。ある指物師さしものしらは、「戸を破るため」に仕事台の鉤金かきがねを持ち出した。
身ごしらえ——喧嘩乃至ないしは火事見舞の支度がいい。金銭——については両替、出入国、相場に関して流言蜚語ひご真に区々まちまち、よろしく上手に立ちまわること肝要、とだけいっておこう。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
流言りうげんはへ蜚語ひごねずみ、そこらの豫言者よげんしやたいするには、周南先生しうなんせんせい流儀りうぎかぎる。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夕方永代えいたいの橋から見ると羽田はねだの沖に血の色の入道雲が立っているがあれこそ国難のしるしであろう——流言蜚語ひご豆州ずしゅう神奈川あたりの人は江戸へ逃げ込むし、気の早い江戸の町人は在方を指して
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
領主の暴政に、人心離反して次第に動揺し、流言蜚語ひごまた盛んに飛んだ。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
種々様々の流言蜚語ひごを放つことを打合せました。イエ、そればかりではありません。もっと恐ろしいことがあるのです。その内の首領らしい覆面の男が重々しい口調でこんなことを云ったのです。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
君の留守に北京はすつかり流言蜚語ひごまちになつてしまつたよ。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
などという蜚語ひごが乱れ飛んだ。
『七面鳥』と『忘れ褌』 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
何しろ、議論百出なのだ、理論はそう大雑把おおざっぱなわけにゆかない。義士の品行論や、復讐論にまでわたって果しがない。いろいろな流言蜚語ひごもこの間に放たれる。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つづいて今度の帰国、瀬戸内海は船で通すにしても、芸州と防州の沖を、無事には通れまい——と言った蜚語ひご流説が、早耳のガラッ八を通して、平次の耳へも聴えて来ました。
鉄砲でやられているのと、盛んな蜚語ひごが飛んで、人々は上を下へと、よろこんだり青くなったり、そのなかを市中は、菰樽こもだるのかがみをぬいて、角々かどかどでの大盤振舞おおばんぶるまいなのだから(前章参照)
苟安こうあんは間もなく姿をかえて、蜀の成都へ入り込んだ。そして都中に諜報機関の巣をつくり、莫大な金をつかって、ひたすら流言蜚語ひごを放つことを任務としていた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次はもう一つこの流言蜚語ひごに留めを刺したのです。