蕎麦粉そばこ)” の例文
旧字:蕎麥粉
それを割ると蕎麦粉そばこの香と共に、ホクホクするような白い里芋さといもの子があらわれる。大根おろしはこれを食うになくてならないものだ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうでなければ蕎麦粉そばこなどとともに練って、手毬てまりほどの大さに丸め、藁火わらびや炉の中に転がして焼いて一朝の飯の代りにした。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
粟が……ひえが……きびが……挽いた蕎麦粉そばこが……饂飩粉うどんこが……まだ大分あるが、まあざっと一年の仕事が斯様こんなもんだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
紙幣さつで十五ルーブリいただいて手離すことにしますよ! ただね、あんたさん、その御用達の話ですがね、裸麦はだかむぎの粉だの、蕎麦粉そばこだの、挽割麦ひきわりむぎだの
だが、驚いたのは、朱実あけみよりは、むしろ青木丹左のほうで、鍋へけかけていた蕎麦粉そばこの袋を取り落して
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これが先日いただきました蕎麦粉そばこでございますが、お腹のすいた時分にこれを水でいていただきますと、まだ私の食と致しましては五日ぶんはたっぷりあるのでございますから
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
... 蕎麦粉そばこへくるんでおいて柔に煮る人もありますがこれもやっぱり大根の方がいいようです」妻君「それで里芋の方は普通なみの煮方でようございますか。どうもこのお芋は堅くって困ります」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
寒い夜などはひそかに蕎麦粉そばこを仕入れておいて、いつの間にかている枕元まくらもとへ蕎麦湯を持って来てくれる。時には鍋焼饂飩なべやきうどんさえ買ってくれた。ただ食い物ばかりではない。靴足袋くつたびももらった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蕎麦粉そばこなどを主要な食料にして居るのである。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「これは蕎麦粉そばこらしいな」
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
火の気を一切おつかいにならないで、水でといた蕎麦粉そばこに、果実くだものぐらいで済ませ、木食もくじきぎょうをなさるかたもあります。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うそと思うなら、これから、蕎麦粉そばこでも土産に持って、姫路城の輝政殿を、ぶらりと、訪ねて行ってもよろしい。——だがわしは、大名の門をたたくのが、何より嫌い。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四十五歳より一生の托鉢たくはつの間、この木喰戒を守り、転々の一生を送ったのだが、与えられない時は、木の葉や草の葉で飢えをしのいでいた。最も好んで食べたのは蕎麦粉そばこであったという。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
蕎麦粉そばこ里芋さといもの子で造る芋焼餅いもやきもちなぞを数えて見せるのも、この婆さんであるから。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もつとも長い月日の間には、斯の新しい交際に慣れ、自然おのづと出入りする人々に馴染なじみ、茶はおろか、物の遣り取りもして、春は草餅を贈り、秋は蕎麦粉そばこを貰ひ、是方こちらで何とも思はなければ
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)