茶托ちゃたく)” の例文
老人は頭の毛をことごとく抜いて、頬とあごへ移植したように、白いひげをむしゃむしゃとやして、茶托ちゃたくせた茶碗を丁寧に机の上へならべる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
王婆が梅湯を茶托ちゃたくにのせて奥から出直して来ると、その間も西門慶せいもんけいは、床几しょうぎを少し軒先へずり出して、しきりに隣の二階を見上げている様子だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの瓦の形を近頃秀真ほずまと云う美術学校の人が鋳物いものにして茶托ちゃたくにこしらえた。そいつが出来損なったのを僕が貰うてあるから見せようとて見せてくれた。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
盆や茶托ちゃたくの打ち合う微妙な音にも、ねんごろにもてなす婦人の柔らかい絹ずれの音にも、また、クリームや砂糖を勧められたり断わったりする普通の問答にも
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
園は少し自分にあきれてまた黙ってしまった。そして気がついて、手にしていた茶碗を茶托ちゃたくに戻した。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
窓の下に、黒っぽい粗末な茶箪笥があって、古い鑵を幾つも見せていたが、その上には、紫檀の盆の中に、薄手うすでの上品な茶碗と錫の茶托ちゃたくとが、鬱金色うこんいろの布巾の下から覗いていた。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
古渡こわたりすゞ真鍮象眼しんちゅうぞうがん茶托ちゃたくに、古染付ふるそめつけの結構な茶碗が五人前ありまして、朱泥しゅでい急須きゅうすに今茶を入れて呑もうと云うので、南部の万筋まんすじ小袖こそで白縮緬しろちりめん兵子帯へこおびを締め、本八反ほんはったん書生羽織しょせいばおり
雪江さんは「あら人の悪るい」と新聞を茶碗の下から、抜こうとする拍子に茶托ちゃたくに引きかかって、番茶は遠慮なく新聞の上から畳の目へ流れ込む。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
云いかけた時、主人の膝がしらが、きっと向いたので、思わず息をつぐと、半兵衛は、静かに、茶托ちゃたくをさしのべて
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえば塗下駄ぬりげたや、帯や、じゃがさや、刀のさやや、茶托ちゃたくや塗り盆などの漆黒な斑点が、適当な位置に適当な輪郭をもって置かれる事によって画面のつりあいが取れるようになっている。
浮世絵の曲線 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
真鍮しんちゅう象眼ぞうがん茶托ちゃたくがありまして、鳥渡ちょっとしまった銀瓶ぎんびん七兵衞しちべえ急須きゅうすを載せて
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
茶の間では細君がくすくす笑いながら、京焼の安茶碗に番茶を浪々なみなみいで、アンチモニーの茶托ちゃたくの上へ載せて
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
茶碗に余った渋茶を飲み干して、糸底いとぞこを上に、茶托ちゃたくへ伏せて、立ち上る。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)