素襖すおう)” の例文
三ツうろこの大紋打った素襖すおう烏帽子えぼしの奉行の駒を先にして、貝桶、塗長持ぬりながもち御厨子みずし、黒棚、唐櫃からびつ屏風箱びょうぶばこ行器ほかいなど、見物の男女は何度も羨望の溜息をもらしていた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
照葉狂言は嘉永の頃大阪の蕩子とうし四、五人が創意したものである。大抵能楽のあいの狂言を模し、衣裳いしょう素襖すおう上下かみしも熨斗目のしめを用い、科白かはくには歌舞伎かぶき狂言、にわか、踊等のさまをも交え取った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
さて褒美に賜はりし素襖すおうをいたく秘めかくさんとして、酔へるあまりに取落ししを主人に拾ひかくされ、あわてて捜しまはると云ふ筋なり。下は大津絵の襖画ふすまえぬけいでておどると云ふ曲なり。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
素襖すおうをきて大太刀おおだちをはいた姿——あれに魂がはいって揚幕から花道にゆるぎ出た時、さらに花道の七三しちさんに坐って、例の“東夷西戎南蛮北狄”の長台詞を朗々たる名調子で淀みなくつらねた時
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
物にかまわない彼であるが、皇居の御工事は、すべて古式にった。大工にはみな烏帽子えぼしを戴かせ、素襖すおうを着せ、用材は清浄を守らせ、かりそめにも不敬不浄をゆるさなかった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さきには引出物ひきでものとして京染めの素襖すおうと小袖をくれた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かぶとしのをしめ、鉄槍鉄砲を草むらにわせて、秀吉の生命を道にうかがった猛者もさどもも、きょうは烏帽子して、素襖すおう小素襖こすおう天正裃てんしょうかみしもなどを美しく着つらね、弓は袋に、槍薙刀なぎなたさや
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)