立札たてふだ)” の例文
土手にはその時分から既に「昇ルベカラズ」の立札たてふだ付物つきものになっていたが構わず登れば堀を隔てて遠く町が見える。
『雨の道より、方々に、私をとらえようとする奉行所の立札たてふだが廻っているので——。お前も、噂をお聞きでしょう』
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この與力よりきもなく、但馬守たじまのかみから閉門へいもんめいぜられた擧句あげくに、切腹せつぷくしてしまつた。とが箇條かでううちには、多田院御用ただのゐんごよう立札たてふだ無禮ぶれいがあつたといふくだりもあつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
十里四方には人らしい者もないように、船をもやった大木の松の幹に立札たてふだして、渡船銭わたしせん三文とある。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところが、九月のすえのある日曜でしたが、朝早く私が慶次郎をさそっていつものように野原の入口にかかりましたら、一本の白い立札たてふだがみちばたの栗の木の前に出ていました。
二人の役人 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
余は窓から首を出して左の立札たてふだを見た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
驛名を書いた立札たてふだの雨風にさらされて黒く汚れたのが、雜草の生えた野天のてんのプラツトフオームに立つてゐる眞似事まねごとのやうな停車場ステーシヨンを、汽車は一せい汽笛きてきとゝもに過ぎ去つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
如何いかんとなれば現代人の古美術保存という奴がそもそも古美術の風趣を害する原因で、古社寺の周囲に鉄の鎖を張りペンキぬり立札たてふだに例の何々スベカラズをやる位ならまだしも結構。
いつぞやこの原の細道ほそみちで、足軽あしがるがになっていくのを竹童ちくどうがチラと見かけた、あの高札こうさつが打ってあるのだ。——といつのにか、その立札たてふだ獄門ごくもんの前へ、三ツの人影ひとかげが近づいている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)