知合しりあい)” の例文
それは旅中で知合しりあいになった遊歴者、その時分は折節そういう人があったもので、律詩りっしの一、二章も座上で作ることが出来て
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
山田は、実は自分の知合しりあいを一人いれたかったのだ。折を見て監督に頼もうと思って、まず見習が一人いるということをほのめかしておいたのだ。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
息を切らしながら後から駆けて来た坊さんは、巡査とは知合しりあいの中だから、ちょっと会釈えしゃくして、僕たちをにらみながら云った。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
すると其処こゝ野口權平のぐちごんぺいと云う百姓がございます、崖の方へ引付ひッついてあるうちで、六十九番地で、市四郎はかね知合しりあいの者ゆえ其家そこを起して湯を貰い
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ねえ小林さん。いつかあなたのお知合しりあいに、有名な素人探偵の方がある様に伺いましたわね。私の思い違いでしょうか」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
小伝馬町の牢屋の原をめぐる四角四面の町々に、アンポンタンの友達の分譜ぶんぷがあり、学んだ学校があり、長唄稽古所があり、親の知合しりあいの家もあったから
すると、あるとき、知合しりあいの家に御婚礼があって、ギンも夫婦でよばれていきました。二人はじぶんたちの馬が草を食べている野原をとおっていきました。
湖水の女 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
国研へ就業しゅうぎょうさせたものであるが、決して兄妹きょうだいとも知合しりあいであるとも他人に知られてはならないという約束であった。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「じゃア師匠ししょう、夢にもあっしの知合しりあいだなんてことは、いっちアいけやせんぜ。どこまでも笊屋ざるやとらに聞いて来た、ということにしておくんなさらなきゃ。——」
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
また僕は、卓子テーブルの一隅で蛙を食べている知合しりあいの旅女優、彼女は僕を見そめると、やってきて僕に囁いた。
飛行機から墜ちるまで (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
そりゃあお前の話に好く聞いていたんだから、古い知合しりあいのようなんだもの。去年の冬、いろんな事を聞いたのでしょう。まあ、あたりまえのモデルとは違うのね。
その乞児はある知合しりあいの乞児といっしょに酒を飲んだが、酔って蓄えている金の事を誇り顔に話した。
義猴記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ちょうど近所の家から今東京の親類の者が来ていてその知合しりあいの或る人形屋で丁稚が欲しいということだがお前さんの家の清吉をやる気がないかという相談がかかった。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
二人は松浦さんと去年からの知合しりあいである。毎日海岸で顔を合せてお天気の挨拶を交している中に
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
三国の津の長崎称念寺ながさきしょうねんじには、かねて知合しりあい園阿上人えんあしょうにんがいた。その人を頼って行ったのである。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その上細君の父は交際範囲の極めて広い人であった。平生へいぜい彼の口にする知合しりあいのうちには、健三よりどの位世間から信用されて好いか分らないほど有名な人がいくらでもいた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いやらしいこと、おつしやらないでください。刈谷かりやさんはつています。むかしからの知合しりあいです。でも、あんなケチンボでへんくつなおとこに、どうして世話せわになんかなるものですか」
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
その官吏はチベット人で私の事をよく知っている。なかなか根性こんじょうの悪い男ですから油断はならぬのみならず、またミス・テーラーに付いて居る下僕もやはり私と知合しりあいの人間である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
私の知合しりあいの海賊の名だよ。簡短でいいから君をそう言うことにするのだ。で、君に言っておかねばならんのはこういうことなのだ。ラムの一杯くらいなら君の命を取ることもあるまい。
綺麗だよ、昔の通り、——ある知合しりあいの家の二階を借りて、ほんの一時間ばかり、そっと逢ったのだが、昔と少しも変らなかったよ、無口で上品でね——僕はたまらなくなって彼女の膝に顔を
この人は伊能先生なども知合しりあいなりき。今より十余年前の事なり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私が、石原すえ子という美しい女と知合しりあいになったのは。
悪魔の弟子 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
又女房のお町は長命でありまして、文政年間の人でお町と知合しりあいの者も大分あったそうでござります。後の業平文治の敵討、これにて終局といたします。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そんなことはありません、魔法などというものが子供におぼえられるでしょうか。僕は魔法使なんてものに知合しりあいはありません。僕は楽に熊が殺せる手だてを
負けない少年 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
僕はね、このショウ・ウィンドウの知合しりあいの人形が、消えてなくなったことと、今日この附近に起った妙な事件とを
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかるに毘陵びりょう趙再思ちょうさいしという者が、偶然泰興を過ぎたので、知合しりあいであったから季因是の家をおとずれた。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それはいずれも私が病気を診察をして薬を与えた人々で、その薬代の代りに禁酒禁煙の約束を貰うたのでございます。一年も居りましたのでこの村で私を知合しりあいにならぬ者は一人もございませぬ。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しかしその堂衆のうちに、一人として知合しりあいなどはいそうもないのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで某氏はパラフィンを注射した俳優に知合しりあいのある事をはなして、そんな例もあるから心配するにも及ぶまいというと、彼女はその俳優の鼻が見せてもらいたいといいだしたので連れてゆくと
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
五六日前から山の手の知合しりあいの家へ泊り込みで仕事の手伝に行っている留守中、御近所の衆のお話では、若い女と男と二人で入り込み、夫婦気取りで泊っていたと申しますが、別に紛失物も無いので
「はあ。その雑誌の記者と知合しりあいで、頼まれたものですから、つい」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
操一氏は知合しりあいの牧師に頼んで、教養あるクリスチャンで、家庭教師の経験を積んだ殿村夫人を傭入れた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
仮初かりそめながら知合しりあいとなったじいの耳へもあなたのよい評判を聞せてもらい、然し何もあなたを追立おいたてる訳ではないが、昨日もチラリト窓からのぞけば像も見事に出来た様子
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
知合しりあいの画家に描いて貰ったもので御自慢の品だ。初めて見る人は
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
裁判所の人などに知合しりあいは少いのだけれど、幸にもこの事件を担当した検事綿貫正太郎わたぬきしょうたろう氏は学芸欄の用件で数度訪問したことがあって、知らぬ仲ではなかったものだから
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そんなものはございません、とったが、少し考えてから、老婢ろうひ近処きんじょ知合しりあい大工だいくさんのところへって、うまいのり出して来た。滝割たきわり片木へぎで、杉のが佳い色にふくまれていた。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
幼い時分二三度家へ来た事のある知合しりあいの美しい女に、確かそういう名前のものがあったという答えでした。最早や何の疑う所もありません。竜子こそ川手氏のお父さんの妾腹の娘だったのです。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)