発願ほつがん)” の例文
その清子は、病夫貞氏と共に、まったく表方には姿をみせず、隠居所の別殿にこもって、近ごろは“日課地蔵絵にっかじぞうえ千枚”の発願ほつがんに他念もない。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
疾翔大力と申しあげるは、施身大菩薩せしんだいぼさつのことじゃ。もと鳥の中から菩提心ぼだいしんを発して、発願ほつがんした大力の菩薩じゃ。疾翔とは早く飛ぶということじゃ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
おいの、いんにゃいの、建てさっしゃるはその奥様に違いないが、発願ほつがんした篤志こころざしの方はまた別にあるといの。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこに到達すると精神の円熟を得て浮世の卑小さを忘れることができると発願ほつがんしたのであるが、実は歪められた発願であつて、内心は小説家になりたかつたのであり
処女作前後の思ひ出 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
雀のお宿の素峰子そほうしは、自ら行乞子こうきつしと称している。かつては書店の主人であったが、愛妻の病没により、哀傷あいしょうの極は発願ほつがんして、ふるって無一物の真の清貧に富もうと努めた。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
瓶沙王びょうしゃおう登極とうきょくの初め、諸采女うねめとこの園に入り楽しまんとせしに、一同自らさとりて婬欲なく戯楽をたのしまず、その時王もし仏が我国に出たら我れこの勝地を仏に献ずべしと発願ほつがん
その日私は発願ほつがんし上人の研究に入ることを決心しました。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その子も一緒に入れて建てたいという発願ほつがんだった。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「これは私の発願ほつがんで、別に子細はありません」
国時はそこで、自分の手によって、東国念仏門第一の伽藍がらんの建立を発願ほつがんしたのである。——もちろん、親鸞もそれをゆるすところとなって。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここはただの普請場ふしんばとちがって、御城主様の発願ほつがんによる大事な御造営の場所——しかも勅額までいただくことになっている建立こんりゅうだ、そんな場所へ、万一
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
叡山えいざんから三里十六町、この正月の十日から発願ほつがんして、ちょうど今宵で九十九夜になるのじゃ、おことの案じてくれるのもわかっておる、また、師の僧正を初め、月輪殿の御心痛のほども
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ここに尊氏、直義の発願ほつがんによって、天龍寺をつ——」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)