痛手いたで)” の例文
路面に転っていると、群衆に踏みつぶされるおそれがあるので彼は痛手いたでえて、じりじりと、商家しょうかの軒下へ、虫のようにっていった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
愛なき結婚が生んだこの不遇と、この不遇から受けた痛手いたでから私の生涯は所詮しょせん暗いとばりの中に終るものだとあきらめた事もありました。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
然し血気の怒にまかする巳代吉の勢鋭く、親分は右の手首を打折うちおられ、加之しかも棒に出て居た釘で右手の肉をかきかれ、大分の痛手いたでを負うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
此の時河内介に取っては、父の膝下しっかへ戻るうれしさもさることながら、桔梗ききょうかたとの別離の悲しみも当分はいやし難い痛手いたでであった。
しかし忠實で親切なあなたが、直ぐに私を突き通してしまはないやうに、私の痛手いたでの場所は教へないことにしませう。
火のなかからびだした半助は、ほッとして大地へたおれたが、やにわにまた足の痛手いたでを忘れておどりたった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
向て有し故左りの方へ跳起はねおきて枕元に有し短刀を拔きおのれ曲者御參なれと切て掛れど病につかれし上痛手いたでをさへ負たれば忽ちくらみて手元の狂ひしゆゑ吾助が小鬢こびん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わたしは、なかなか過去とえんを切ることができなかったし、そう手っとり早く勉強にかかることもできなかった。心の痛手いたでえるまでには相当の時間がったのである。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
『お前ひどく血が出るか、不死の馬よ!』若者は自分の痛手いたでよりも、今まで痛さというものは味わったことのない筈の、この栄光ある動物の苦痛の方を心配して、叫びました。
だがホーベスの負傷ふしょうは、急所の痛手いたでなので、この妙薬みょうやく効験こうけんはなかった。かれは自分でとうてい助からないと知り、眼をかすかに開いて、ケートの顔をしみじみとながめていった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ロミオ ひと痛手いたであざけりをる、自身じしんきずうたことのやつは。……
やっとこなと起かけてみたが、何分両脚の痛手いたでだから、なかなか起られぬ。到底とて無益むだだとグタリとなること二三度あって、さてかろうじて半身起上ったが、や、その痛いこと、覚えずなみだぐんだくらい。
小男鹿さをじか痛手いたでぞわれに
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
自分も、横浜のとても住居すまいも若い時から造らせた好いことも、なにもかも震災の難にあって、命だけたすかった、身に覚えのある痛手いたでなので
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
青木主膳はやりで突かれたもゝ繃帯ほうたいをしていたが、二度目に腕へ負傷してからも痛手いたでに屈せず働いていた。そして極くたまに法師丸の顔を見ることがあると
ほとんど、水もらさぬほど完封してあるのに、これが敵兵に何の痛手いたでもないとあっては一大事じゃが
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
失ったことは、たいへんな痛手いたでだ。この国は、もう一度立直れるかどうか、あやしくなった
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「捨ててはおけず、といって、今すぐに、大軍をもよおすには、いかんせん、わが魏にはなお、赤壁せきへき痛手いたでえきらないものがありますから、にわかに無理な出兵も考えものです」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は痛手いたでを忘れて、窓のわくにつかまりながら、家の中をのぞきこんだ。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ふいにえるような蚕婆の声とともに、さすがは半助、足の痛手いたでを忘れて、ポーンと小川をびこえたが、よりはやく、やみのなかを飛んできた投げなわの輪が無残、五体にからんでザブーンと
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼にとって大きな痛手いたでであったかが思いやられる。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)