甘藷かんしょ)” の例文
あめや砂糖とはくらべものにもならぬが、甘藷かんしょ黒豆くろまめには少しの甘味があり、まためずらしいのでお茶の相手によかったのであろう。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
馬鈴薯じゃがいも甘藷かんしょ胡羅蔔にんじん雪花菜ゆきやさいふすまわら生草なまくさ、それから食パンだとか、牛乳、うさぎとり馬肉ばにく、魚類など、トラックに満載まんさいされてきますよ
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
遊女の艶話は一般に喧伝されやすく、学者の功績はとかく忘却され易いのも、世の習であろう。それはいわゆる甘藷かんしょ先生の青木昆陽の墓である。
目黒の寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
僕は滅茶苦茶めちゃくちゃに畑の仕事に精出した。暑い日射ひざしの下で、うんうんうなりながら重いくわを振り廻して畑の土を掘りかえし、そうして甘藷かんしょの蔓を植えつけるのである。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
家は何の奇もない甘藷かんしょ畑と松林との間に建てられたものだが、縁側に立って爪立ち覗きをしてみると、浜の砂山のなみのような脊とすれすれに沖の烏帽子えぼし岩が見えた。
健康三題 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
前夜かまで煮て食い尽くしたはずの甘藷かんしょが押し丸められて、渡辺の座っているわきへゴロゴロと転がって来たときなど、どうやらこの女のいた方面から来たらしいので
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
是非一本をあがなって再読三読し給え。主婦之友などを読んで、甘藷かんしょの貯蔵法ばかり研究していてはいけない。君はアフタニデスの蓄妾論を読んだことがあるか? 勿論ないだろう。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
そうして自由に放恣ほうしな太古のままの秋草の荒野の代わりに、一々土地台帳の区画に縛られた水稲、きび甘藷かんしょ、桑などの田畑が、単調で眠たい田園行進曲のメロディーを奏しながら
軽井沢 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
遊女の艶話つやばなしは一般に喧伝けんでんされ易く、学者の功績はとかく忘却され易いのも、世の習いであろう。それはいわゆる甘藷かんしょ先生の青木昆陽あおきこんようの墓である。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
◯昨日は畠をこしらえ、加藤完治(※満蒙開拓移民の指導などに当たった、明治—昭和期の農本主義者)さんの話にならい、甘藷かんしょの皮を植えてみる。
海野十三敗戦日記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
上目黒渋谷境、鈴懸の仮寓、小さいが瀟洒しょうしゃとした茶室造り、下手しもて鬱蒼うっそうたる茂み、上手かみてに冬の駒場野を望む。鈴懸、炬燵こたつをかけて膝を入れながら、甘藷かんしょを剥いて食べている。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
山野で採取せられるくず山慈姑やまくわいわらびの類、甘藷かんしょ馬鈴薯ばれいしょ等の栽培球根は、水分を利用して粉砕せられたけれども、のちに乾燥して貯蔵する故に、やはり常食の中に加えられている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
或いは炒米いりごめ甘藷かんしょとを合せ炊き、または豆飯であったり茶飯であったりするが、とにかくにどこでも味附け飯のことをそう謂っている。こういう一種の食物が発明せられまたひろく行われたのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)