片影かたかげ)” の例文
私の教育に惜気おしげもなく掛けて呉れたのは、私を天晴あッぱれ一人前の男に仕立てたいが為であったろうけれど、私は今びょうたる腰弁当で、浮世の片影かたかげに潜んでいる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
又警察以外の方面より見るに、これ亦この恐怖すべき出来事に対して説明の片影かたかげをだに捉へ得たるものなし。
かるすその、すら/\と蹴出けだしにかへるとおないろ洋傘かうもりを、日中ひなかあたるのに、かざしはしないで、片影かたかげ土手どていて、しと/\とつたは、るさへ帶腰おびごし弱々よわ/\しいので
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
桐の青葉の重げにるゝ一夜、暮すぎてだ程もあらせず、例の如く家を出でゝ彼の老松らうしようもとに来掛りし時、突然片影かたかげより顕はれいづるものありと見るに、わが身にひたとかじりつき
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
仰向あおむけになり、胸の上に片手を力なく、片手を投出し、足をのばして、口を結んだ顔は、灯の片影かたかげになって、一人すやすやと寝て居るのを、……一目見ると、それは自分であったので
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まくらならべ、仰向あをむけになり、むねうへ片手かたてちからなく、片手かたて投出なげだし、あしをのばして、くちむすんだかほは、片影かたかげになつて、一人ひとりすや/\とるのを、……一目ひとめると、それ自分じぶんであつたので
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)