)” の例文
旧字:
わけて、こがらしの吹きすさぶ夜は、大岳たいがくの木の葉が、御簾ぎょれんのあたりを打ッて、ともしのささえようすらないのであった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのほとんど狼の食いちらした白骨のごとき仮橋の上に、陰気な暗い提灯の一つに、ぼやりぼやりと小按摩がうごめいた。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ともし低く、しらみわたる部屋にこんこんと再び眠りに沈んだ大膳亮——畢竟ひっきょうこれはうつし世の夢魔むま、生きながらに化した剣魅物愛けんみぶつあいの鬼であった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ともあれ柴進の一命は今や風前のともしにある——という戴宗のつぶさな話は、いよいよ、聞く者をして
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、あれ、どこともなく瀬の音して、雨雲の一際黒く、おおいなる蜘蛛のにじんだような、峰の天狗松の常燈明の一つが、地獄の一つ星のごとく見ゆるにつけても、どうやら三体の通魔めく。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あの山の上の一ツは、関明神のお明りでございましょうな。ああどこを見てもただまっ暗、何だかわしのようながさつ者も、しみじみと旅の淋しさがこたえてきます」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ一すいともと、それに照らさるる武蔵の青白く頬のげた影とがあるだけであった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ白壁も真新しい長浜の城内では、はやくも、この有明ありあけをともがうごき出している。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の念願は、興福寺の経蔵きょうぞうのうちにあった。許しをうけて、その大蔵だいぞうの暗闇にはいった範宴は、日も見ず、月も仰がず、一穂いっすいともをそばにおいて、大部な一切経いっさいきょうに眼をさらし始めたのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)