毒牙どくが)” の例文
が、その狼の毒牙どくがは、法律にって、保護されている毒牙だった。今の世の中では、国家の公正な意志であるべき法律までが、富める者の味方をした。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そしてわずかな弱点を捜しあてて、そこに鋭い毒牙どくがを働かせ始める。壁がやがて破れたと思うと、もう簔虫のわき腹に一滴の毒液が注射されるのであろう。
簔虫と蜘蛛 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
われはなんじ毒牙どくがにかかり、非業にも最期をとげたる、月丸が遺児わすれがたみ、黄金丸といふ犬なり。彼時かのときわれ母の胎内にありしが、そののち養親やしないおや文角ぬしに、委敷くわしき事は聞きて知りつ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
それと同時どうじ若者わかものためにはかれ蝮蛇まむし毒牙どくがごときものでなければらぬ。れでありながら威嚴ゐげん勢力せいりよくもないかれすべての若者わかものからかれ苛立いらだたしめる惡戯いたづらもつむくいられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
と謙三郎の叫びたるは、足やまれし、手やかけられし、犬の毒牙どくがにかかれるならずや。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
事実上、平靖号は、まんまと船長ノルマンの毒牙どくがに、かかってしまったわけだった。南シナ海方面で大いにあばれるつもりだった仮装中国汽船の平靖号も、ついにつまらない運命におちこんだ。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)