わた)” の例文
溝にわたした花崗岩みかげいしの橋の上に、髮ふり亂して垢光りする襤褸を著た女乞食が、二歳許りの石塊いしくれの樣な兒に乳房をふくませて坐つて居た。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
岸より一丈あまり下に両岸よりさしむかひたる岩のはなあり、これをたよりとしてはしわたしたる也。
勿論巖岨いはそばり削つて造つた道だから、歩を誤つては大變であるが、鐵の棒を巖へ立てたり、力になるやうに鐵線はりがねわたしてあつたり、親切に出來てゐるから危いことも無い。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
この通り、琵琶の中は、空虚うつろも同じでございましょうが。では、あの種々さまざまの変化はどこから起るのかと思いますと、この胴の中にわたしてある横木ひとつでございまする。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猫貍橋は後掲氷川の杜の「西の方、小石川の流れにわた」したもので、「昔、大木の根木のまたを以て、橋にかへ」たゆゑ、また橋なのであると本文にはかく説明されてゐる。
巣鴨菊 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
巡査の案内に従って、松明たいまつを片手に奥深く進み入ると、この頃は昇降の便利を計る為に、横木よこぎわたした縄梯子なわばしごおろしてあるので、幾十尺の穴をくだるに格別の困難を感じなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
でも嬉やたった一ヵ所窓のように枝がいて遠く低地ひくちを見下される所がある。あの低地ひくちにはたしか小川があって戦争ぜんに其水を飲だ筈。そう云えばソレ彼処あすこ橋代はしがわりわたした大きな砂岩石さがんせき板石ばんじゃくも見える。
溝にわたした花崗石みかげいしの橋の上に、髪ふり乱して垢光りする襤褸ぼろを着た女乞食をなごこじきが、二歳許りの石塊いしくれの様な児に乳房をふくませて坐つて居た。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
橋は一旦巖上に中絶した如くなつて後に、また新に對岸にわたされてゐるのである。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
この家は小さい陣屋のような構造かまえで、もんの前には細いながれを引きめぐらし、一けんばかりの細い板橋がわたしてある。家の周囲は竹藪に包まれて、藪垣やぶがきの間から栗の大木が七八本そびえていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
荒川橋とて荒川にわたせる鉄橋あり。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)