春蘭しゅんらん)” の例文
床の間には春蘭しゅんらんはちが置かれて、幅物は偽物にせもの文晃ぶんちょうの山水だ。春の日がへやの中までさし込むので、実に暖かい、気持ちが好い。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
として彼は今日も、舶載の支那鉢に、ひと株の福寿草を移し植え、それを卓の春蘭しゅんらんとならべて、みずから入れた茶をきっしながら、ひとりかんを養っていた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いろいろなめずらしい草を集めましたよ——じじばば(春蘭しゅんらん)だの、しょうじょうばかまだの、姫龍胆ひめりんどうだの。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
爺と婆とは普通には春蘭しゅんらんの花を採ってそう呼びました。元は粗野なる歌があったに相違ありません。甲州の逸見へみでは、蝸牛かぎゅうをもジットーバットーと呼んでいます。
ひるの前後はまた無闇むやみあたたかで、急に梅が咲き、雪柳ゆきやなぎが青く芽をふいた。山茱萸さんしいは黄色の花ざかり。赤いつぼみ沈丁花ちんちょうげも一つ白い口をった。春蘭しゅんらん水仙すいせんの蕾が出て来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一々の岩石をあさって行くと、それらの灌木のほかに、日蔭のところには獅子頭ししかしら羊歯しだ類が生えており、しのぶがつき、岩松がつき、春蘭しゅんらんもまたおびただしくその間に散在している。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
帰りは下りだから無造作に二人で降りる。畑へ出口で僕は春蘭しゅんらんの大きいのを見つけた。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
春蘭しゅんらんかつての山の日を恋ひて
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
茶々は、いよいよ美しくなり、いよいよ母のおいちかたもしのぐばかり、美人系の織田家の高貴な血液を、春蘭しゅんらんの花の肌にも似た頬にも襟すじにも、仄見ほのみせて来た。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふつうの武家の書院とちがい、そこにも次のへやにも、書物がたくさんあった。春蘭しゅんらんの鉢、陶器、文房具など、明国物みんこくもののにおいが濃い。故人卜幽軒ぼくゆうけんの学風や趣味によるものであろう。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見れば、大将軍袁紹えんしょうが、門旗をひらいて馬をすすめてくる。黄金こがねかぶと錦袍きんぽう銀帯をよろい、春蘭しゅんらんと呼ぶ牝馬ひんば名駿めいしゅん螺鈿らでんの鞍をおき、さすがに河北第一の名門たる風采堂々たるものを示しながら
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
らんはお好きでありませんか。春蘭しゅんらんもよいが、秋蘭もなかなかよい」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)