掻挘かきむし)” の例文
信吾のいかりはまた発した。(有難う御座います。)その言葉を幾度か繰返して思出して、遂に、頭髪かみ掻挘かきむしりたい程腹立たしく感じた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
中には、東京の学校に居る頃、友達と二人洋傘こうもりを持って写したもので、顔のところだけ掻挘かきむしって取ったのもあった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこへはすでに防ぎの人数が詰め掛けているのだが、突崩されるのを待つ空虚な、そして掻挘かきむしられるようなもどかしさ苛立いらだたしさに、みんな眼を光らせ、ぶるぶると総身を震わしていた。
三十二刻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
今彼の身は第二医院の一室に密封せられて、しかも隠るる所無きベッドの上によこたはれれば、宛然さながら爼板まないたに上れるうをの如く、むなしく他の為すにまかするのみなる仕合しあはせを、掻挘かきむしらんとばかりにもだゆるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
身悶みもだえして帯を解棄て、毛を掻挘かきむしまげこわせば、鼈甲べっこうくし黄金笄きんこうがい、畳に散りて乱るるすがた、蹴出す白脛しろはぎもすそからみ、横にたおれて、「ええ、悔しい!」柳眉りゅうびを逆立て、星眼血走り、我とわが手に喰附けば
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うつつとも、幻とも……目に見えるようで、口にはえぬ——そして、優しい、なつかしい、あわれな、情のある、愛のこもった、ふっくりした、しかも、清く、涼しく、悚然ぞっとする、胸を掻挘かきむしるような、あの
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
突けば折れるばかりの巌の裾をごしごしごしごしと掻挘かきむしる。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)