悲惨みじめ)” の例文
旧字:悲慘
哀れな、賤しげな、怖ろしい、ぞっとするような、悲惨みじめな者どもであった。二人は精霊の足許に跪いて、その着物の外側に縋り着いた。
実際、小父さんの周囲にある人達で、学問や宗教に心を寄せるものの悲惨みじめさを証拠立てないものは無いかのようであった。哀しい青年の眼ざめ。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
不安と焦燥とにオドオドして、昨日より悲惨みじめに見えました。意志も何も無くなって了った。そんな人間に見えました。
「あゝ、湯が滲みて苦しいこと。………親方、後生だから私をちゃって、二階へ行って待って居てお呉れ、私はこんな悲惨みじめざまを男に見られるのが口惜くやしいから」
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
悲惨みじめなのは男で、これからは仕立屋の手で出来上つた、着心地きこゝちい着物はもう着られなくなつた。
自分がこの鏡のなかに織り込まれているときは、春である、豊である、ことごとく幸福である。鏡のおもてから自分の影を拭き消すとやみになる、暮になる。すべてが悲惨みじめになる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
可愛い児供こどもの生れた時、この児も或は年を老つてから悲惨みじめ死様しにざまをしないとも限らないから、いつそ今うスヤ/\と眠つてる間に殺した方がいいかも知れぬ、などと考へるのは
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かかあは内職、娘は工場こうば。なぞというような一家となったら。むご悲惨みじめさ話にならない。介抱どころか、お薬どころか。すぐにそのまま一家が揃うて。あごを天井に吊るさにゃならぬ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
江戸人は瓦解がかいと一口にいうが、その折悲惨みじめだったのは、重に士族とそれに属した有閑階級で、町人——商人や職人はさほどの打撃はなかった。扶持ふちに離れた士族は目なし鳥だった。
ところで鉤が合えば面白いように釣れますが、合わないと来た日にはこれくらい悲惨みじめなことはありません。隣の人が矢継早に釣り上げるのに此方は盥の中へ糸を下していると同様です。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
さすればよしやお糸が芸者になったにした処で、こんなに悲惨みじめな目にわずとも済んだであろう。ああ実に取返しのつかない事をした。一生の方針を誤ったと感じた。母親が急に憎くなる。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
出しには出しても、出した荷は山と積まれたまま焼けてしまうのですから、誰も生命いのちからがら、ただ身一つになって、風呂敷包み一つも持たず逃げ出したもの……実に悲惨みじめなことでありました。
滅茶々々に圧潰されたシルクハットが一段と悲惨みじめさを添えていた。
と云うのは、独身者は悲惨みじめな仲間外れで、そう云う問題に対して意見を吐く権利がないと返辞したからであった。
主税ちからのそういう悲惨みじめな努力を、皮肉と嘲りとの眼をもって、憎々しく見ていた頼母たのもは云った。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さすればよしやおいとが芸者になつたにしたところで、こんなに悲惨みじめな目にはずともんだであらう。あゝじつ取返とりかへしのつかない事をした。一生の方針をあやまつたと感じた。母親が急ににくくなる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
氏の養父松本重太郎氏が老年になつてあゝした悲惨みじめな境涯に陥つた。
そうしてそれが解った時から、お前は悲惨みじめな人間となろう。恐ろしい恐ろしい『ごう』の姿がまざまざお前に見えて来よう。世にも不幸な人間とは、ほかでもないお前の事じゃ。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いやもうその点から云う時は、悲惨みじめな人種でございますよ。全くもって下等な人種で。お話にも何んにもなりゃあしません。戴くものなら夏も小袖、何んでも頂戴致します。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
江戸三界、八百八町、どこを見ても生色なく、うごめくものは飢えた人、餓えた犬猫ばかりであったが、わけても本所深川辺りは当時の盛り場であっただけ悲惨みじめさは一層目に立った。
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
紅玉エルビーを失った張教仁の、その後の生活は悲惨みじめであった。燕楽ホテルの自分の室で、じっと悲嘆に暮れるのでなければ、北京ペキンの市街を夜昼となく、紅玉エルビーを探して彷徨さまようのであった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この方にこそ怨みがある! ……この悲惨みじめな境遇に、おとしいれた元兇こそ、あの悪婆あくばじゃ、鬼火の姥じゃ! ……その眷族というからには、何んのおのれら許そうや! ……が
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
浮藻はちょっとばかり躊躇ちゅうちょしたが、一刻も早く小次郎に逢いたい、この要求があったので、由緒ゆいしょありげでもあり悲惨みじめでもある、女乞食の身について、一応たずねたくは思ったものの
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ピカソあたりの表現派絵画と脈絡通ずるとまで持てはやされているが、それは大正の今日のことで、北斎その人の活きていた時代——わけても彼の壮年時代は、ひどく悲惨みじめなものであった。
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし俺は衰弱よわっている。これほどの姦策かんさくをたくらむ奴だ、どんな用意がしてあろうも知れぬ。あべこべに討たれたら悲惨みじめなものだ。……さてここにある横穴だが、何んとなく深いように思われる。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)