忌諱きき)” の例文
それが非常に松村氏の忌諱ききにふれた、松村氏は元来好い人ではあるが、どうも少し狭量な点があって、これを大変に怒ってしまった。
徳川幕府の忌諱ききに触れることを、意としないという大胆なる勇猛心が、心ある人をしてなるほどと感心せしめたのもその一つでしょう。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これ以上信長公の忌諱ききに触れることのないようにと、一にも信長、二にも信長と、ただ服従と奉公一念をすすめる以外にないのであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陸軍省報道部将校の忌諱ききに触れたためであつて、「時局にそはぬ」といふのが、その理由であつた。
「細雪」回顧 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
新聞紙の面を見れば政府の忌諱ききに触るることは絶えてせざるのみならず、官に一毫の美事びじあればみだりにこれを称誉してその実に過ぎ、あたかも娼妓しょうぎの客にびるがごとし。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
なんとくしたがそのもつとおほい(五三)彰明しやうめい較著かうちよなる者也ものなり近世きんせいいたるがごとき、(五四)操行さうかう不軌ふきもつぱ(五五)忌諱ききをかし、しか終身しうしん逸樂いつらくし、富厚ふうこうかさねてえず。
離れは新太郎君の部屋と向き合いだから青簾越あおすだれごしに能く見える。秀子さんと芳子さんは無論のこと、大姉さんの松浦夫人まで西川老の忌諱ききに触れそうな短い海水着姿で通りかゝった。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
石川達三の小説が軍事的な意味から忌諱ききに触れたのもこの年の始めであった。
昭和の十四年間 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
これも間接に山城河岸の父子をして忌諱ききを知らしむるなかだちとなったであろう。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
放埒ほうらつだけならまだしも助かるが、殊更ことさら、幕府の忌諱ききに触れるような所行ばかりする。政道に不平を抱いているかのように推測おしはかられ、幕府の諸侯取潰とりつぶしの政策に口実を与えるような危険な状態になった。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「ふしぎにも命が助かった」と、慄然りつぜんとしたが、実にこの危地から彼を救った者は、さきに彼の忌諱ききにふれて、陣後に残された賈逵かきであった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが非常に松村氏の忌諱ききにふれた。松村氏は元来好い人ではあるが、狭量な点があって、これを大変に怒ってしまった。
あたかも一家の至尊には近づくべからず、その忌諱ききにはるべからず、俗にいえば殿様旦那様の御機嫌は損ずべからずとして、上下尊卑のぶんを明らかにし、例の内行禁句の一事に至りては
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そのために出版業者は情報局の忌諱ききに触れるものを出したら睨まれて潰されるかも知れないからぐにゃぐにゃになって、できるだけ情報局のお気に入るようなものになって存在しようとする。
婦人の創造力 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
わたくしはこの記事を作るに許多あまた障礙しょうがいのあることを自覚する。それは現存の人に言い及ぼすことがようやく多くなるに従って、忌諱ききすべき事に撞着とうちゃくすることもまた漸くしきりなることを免れぬからである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これが益〻当局の忌諱ききに触れるところとなり、三僧を江戸に下して問責し、遂に沢庵を出羽上ノ山へ、玉室を奥州棚倉へ流刑に処した。時に寛永六年七月、沢庵は五十七歳であった。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)