徒然とぜん)” の例文
平生へいぜいの元気も失せて呻吟しんぎんしてありける処へ親友の小山中川の二人尋ね来りければ徒然とぜんの折とておおいよろこび枕にひじをかけてわずかこうべ
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかし下宿の徒然とぜんに打ち勝たれるのが何より苦しいので、よく三沢の時間をつぶしにこっちから押し寄せたり、また引っ張り出したりした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ある日の事、自分は昼飯をべてのち、あまりの徒然とぜんに、慰み半分、今も盛りと庭に咲乱さきみだれている赤い夏菊を二三手折たおって来て、床の間の花瓶にけてみた
鬼無菊 (新字新仮名) / 北村四海(著)
徒然とぜんさに院は入道の宮の御殿へおいでになった。若宮も人に抱かれて従っておいでになって、こちらの若宮といっしょに走りまわってお遊びになるのであった。
源氏物語:42 まぼろし (新字新仮名) / 紫式部(著)
伊「そんな怖い顔をしなくってもいじゃアないか、私が悪ければこそ斯んなさみしい処に来て、小さくなってるので、あんま徒然とぜんだから発句ほっくでもろうと思ってちょいと筆を取ったのだよ」
春雨霏々ひひ。病牀徒然とぜん。天井を見れば風車かざぐるま五色に輝き、枕辺を見れば瓶中へいちゅうの藤紫にして一尺垂れたり。ガラス戸の外を見れば満庭の新緑雨に濡れて、山吹は黄ようやく少く、牡丹は薄紅うすくれないの一輪先づ開きたり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しこうして做せり。彼ら徒然とぜんとしてまんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ちょう午睡時ひるねどき徒然とぜんでおります。」
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其外そのほか徒然とぜんであつたり、気が向いたりして作る場合は無論あるだらうが)中佐は詩を残す必要のない軍人である。しかもその詩は誰にでも作れる個性のないものである。
艇長の遺書と中佐の詩 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今日きょうは来たな、丁度用もなし徒然とぜんで居るから幸いで、酒は少しは飲むか、一さん取らせよう、これ由次よしじ、奥へ行ってあの菓子が有ったから、あれを多分に母といもとに土産になる様にして遣れ
どうしても自分は甲野さんより有益な材である。その有益な材を抱いて奔走に、六十円に、月々を衣食するに、甲野さんは、手をこまぬいて、徒然とぜんの日を退屈そうに暮らしている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
話にはもうきました。私は旅行中に誰でも経験する一種の徒然とぜんに襲われました。ふと床の間のわきを見ると、そこに重そうな碁盤ごばんが一面あったので、私はすぐそれをへやの真中へ持ち出しました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)