彼奴かやつ)” の例文
いよいよ悪象ファッツに走り懸ると彼奴かやつ今吐いた広言を忘れ精神散乱して杼も餅も落し命辛々からがら逃げ走る、その餅原来尋常の餅でなく
肩口へ極深のぶかに、彼奴かやつ倒れながら抜打ちに胴を……自分は四五寸切り込まれる、ばッたり倒れる、息は絶える,娘はべッたりそこへ坐ッて
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
すると彼奴かやつは、真蒼な顔をして、毒々しい両眼にびっくりしたらしい表情を浮べて、ものも云わずに逃げてってしまったんだ。
「柵のくいはかく打つもの、結び様はこの様にするもの」と云いながら立ち働いて居るのを見て、昌景、「彼奴かやつは尋常の士ではない、打ち取れ」
長篠合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼奴かやつのためにはかられて、途中、輸送に従っていた十六名の者、みな毒酒を呑まされて……かくのごとき始末にござりまする
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしそれは忠之の方で、彼奴かやつどれだけの功臣にもせよ、其功をたのんで人もなげな振舞をするとはしからんと思ひ、又利章の方で、殿がいくら聰明でも
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
三五郎は否々いや/\何にしても此度は是非共ぜひともかしくれよ翌日あすにも仕合しあはせよければ返すべしとて何分承知せざれば段右衞門も心中に思ふやう彼奴かやつが身に惡事のあるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
うむ、よくえている。十分熱に耐えたようじゃ。彼奴かやつらは、まさかこの人造人間じんぞうにんげんの胸の中には、液体酸素の冷却装置があるということに気がつかないのじゃろう。
詛はれし者共聲をそろへて叫びていふ、いざルビカンテよ、汝爪を下して彼奴かやつの皮をげ 四〇—四二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
扨は彼奴かやつも相談に乗っているのではないか、それにつけても頼むまじきは人心じゃ、急ぎ兵部奴をたばかり寄せて、腹を切らせよとの仰せでござったが、そこを某が執り成して
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼奴かやつ神通広大じんずうこうだいなる魔法使にて候えば、何を仕出しいださむもはかがたし。さりとて鼻に従いたまえとわたくし申上げはなさねども、よき御分別もおわさぬか。」と熱心に云えばひややかに
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この「ルチフエエル」が姿をば、一たび見つるもの忘るゝことなし。われもダンテが詩にて、彼奴かやつ相識ちかづきになりたるが、汝はよべの囈語うはごとに、その魔王の状を、つばらに我に語りぬ。
俺を助けるのは、彼奴かやつを斬るより外に道がないのだ——全く、よく似ている。
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
常人には気取られるはずのないおれの動静を感づいた彼奴かやつは何者だろう。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
電燈のコード咬み切るふてぶてし鼠彼奴かやつは感ぜぬらしき
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
だがやっこさんそれでは満足しなかったので、賄方まかないがたに出世させてもらったんだ。まるで家の中は彼奴かやつの思うように左右されてるようなものなんだ。
手込てごめにせんとは不屆なり愼んで此方の調べをうけよとしかつけるに五兵衞はハツと心付是はまことに恐れ入り奉つる彼奴かやつに悴を殺されたる無念の餘り御役人樣の御前を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いい加減に述べて、引き出しをいて、たちまち彼奴かやつの眼前へ打ちかえすと、無数の小銭が八方へ転がり走る。
しかし、彼の鬱憤うっぷんは、久米一の細工屋敷が没落し、彼が城下ではりつけになるのをみても、まだまだ腹がえなかった。彼奴かやつが死んでも殺されても、まだ生きているもののあるのを知っている。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして深山の室に闖入ちんにゅうして、あのフィルムを奪回だっかいしたのです。彼奴かやつを探しましたが、どうしたものかベッドはあっても姿はありません。早くも風を喰らって逃げてしまった後だったのです。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
間近く彼奴かやつの後に出でつ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼奴かやつは家の中をぶらぶら歩き廻って、何でも自分勝手な事をしてしまうんだよ、女中たちは彼奴かやつの酔っ払らいと乱暴な言葉使いに腹を立ててブツブツ云う。
見定みさだめざりしは殘念ざんねんなれども江戸の中にさへ居らば尋ぬるにも便たよりよしさりながら彼奴かやつ惡漢しれものなれば其方とおもて
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「こなたから、不意に軍勢をのばすのじゃ、彼奴かやつらの虚を突くのだ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)