彷徨はうくわう)” の例文
あゝ、当年豪雄の戦士、官軍を悩まし奥州の気運を支へたりし快男子、今は即ち落魄らくはくして主従唯だ二個、異境に彷徨はうくわうして漁童の嘲罵にふ。
客居偶録 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
本國ほんごく日本につぽん立去たちさつたひと其人そのひといまかる孤島はなれじまうへにて會合くわいごうするとは、意外いぐわいも、意外いぐわいも、わたくし暫時しばし五里霧中ごりむちう彷徨はうくわうしたのである。
今の談理家はおの/\おのが方寸の小宇宙に彷徨はうくわう逍遙して、我が思ふところのみを正しとし、これを尺度として大世界の事を裁斷せんとす。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
而して今にして知りぬ、古人が自家見証につきて語る所の、毎々つね/″\いたづらに人をして五里霧中に彷徨はうくわうせしむるの感ある所以ゆゑんを。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
「犬の幽霊が野原をああして駆けまはつて居たのだ。さうして、さういふ霊的なものは俺にばかりしか見えないのだ……。」……憂欝いううつの世界、呻吟しんぎんの世界、霊が彷徨はうくわうする世界。
綱吉殺しの調べは一向進んだ樣子もなく、御用聞の友次郎も、與力の笹野新三郎も、全く五里霧中に彷徨はうくわうして居るのに、平次の狂態は恐ろしい勢で進展し、半月經たないうちに
善き半身である処の邦子のおだやかな容子ようすを考へて、その妻を犠牲にしながら、自分だけはこんなところに彷徨はうくわうしてゆき子にからまり、現在の生活の淋しさを、ゆき子によつてのがれようと
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
そは他年わが拿破里の遭遇の悉く夢ならぬを證せんしろにもとてなり。嗚呼、われ拿破里を見たり、拿破里の市を彷徨はうくわうせり。わが得しところそも幾何いくばくぞ、わが失ひしところはたそも幾何ぞ。
「ロメオ・アンド・ジユリヱット」の著者は、何が故にロメオが欝樹叢中に彷徨はうくわうしたりしやを記せず。
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
因果は万人に纏ひて悲苦を与ふるものなるに、万人は其繩羅じようらを脱すること能はずして、生死の巷に彷徨はうくわうす、伏姫は自ら進んでこの大運命に一身をゆだねたるものなり。
而して人間は実に有限と無限との中間に彷徨はうくわうするもの、肉によりては限られ、霊に於ては放たるゝ者にして、人間に善悪正邪あるは畢竟ひつきやうするに内界に於て有限と無限との戦争あればなり