干場ほしば)” の例文
市中繁華な町の倉と倉との間、または荷船の込合こみあう堀割近くにある閑地には、今も昔と変りなく折々紺屋こうや干場ほしばまたは元結もとゆい糸繰場いとくりばなぞになっている処がある。
今度は返事ものどで殺し、だまって押入れから編笠あみがさを取って渡しましたが、幸い、裏は紺屋こうや干場ほしばつづき、さっきのウカツな声とても、近所へまで聞かれたとは思われません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし長屋は右側ばかりで、左側の空地は紺屋こうや干場ほしばにでもなっているらしく、所まだらに生えている低い秋草が雨にぬれて、一匹の野良犬が寒そうな顔をして餌をあさっていた。
半七捕物帳:12 猫騒動 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鐵拳かなこぶし撲倒はりたふ勇氣ゆうきはあれどまこと父母ちゝはゝいかなるせて何時いつ精進日しやうじんびとも心得こゝろえなきの、心細こゝろぼそことおもふては干場ほしばかさのかげにかくれて大地だいぢまくら仰向あふむしてはこぼるゝなみだ呑込のみこみぬるかなしさ
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一山もある、れた洗濯物を車に積んで干場ほしばへ運んでく事もある。何羽いるか知れない程のにわとりの世話をしている事もある。古びた自転車に乗って、郵便局から郵便物を受け取って帰る事もある。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
いつしかに春のなごりとなりにけり昆布干場ほしばのたんぽぽの花
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
立枯たちがれの木をへし折って、それをつるゆわえて干場ほしばこしらえる。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鉄拳かなこぶしに張たほす勇気はあれども誠に父母いかなる日に失せて何時いつを精進日とも心得なき身の、心細き事を思ふては干場ほしばの傘のかげに隠くれて大地だいぢまくら仰向あほのしてはこぼるる涙を呑込みぬる悲しさ
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)