左袒さたん)” の例文
どうでも今日は行かんすかの一句と、歌麿うたまろが『青楼年中行事』の一画面とを対照するものは、容易にわたくしの解説に左袒さたんするであろう。
雪の日 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし、直覚があるからと言つて、常識を踏みにじつて了ふ人達には私は左袒さたんしない。常識は、少くとも自然の外面的『あらはれ』である。
エンジンの響 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
コロムビアのシゲティーもビクターのハイフェッツも名演奏ではあるが、私は少年メニューインのつかんだバッハ魂の雄大端正さに左袒さたんする。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
先に引用した句の後の方では、セイは利用学説に労働価値説をまじえた。だがセイは稀少性学説に左袒さたんしているようである。
「いき」に左袒さたんする者は amour-goûtの淡い空気のうちでわらびを摘んで生きる解脱げだつに達していなければならぬ。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
然れども誤解することなかれ、吾人は彼の無暗に宗教と文学を混同して、その具躰的の形式にめんとまでに意気込みたる主義に左袒さたんするものにあらず。
情熱 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
それで私は富士山はやはり火の神を意味するアイヌ語のフチから導かれた名であるという説に左袒さたんするものである。
二、三の山名について (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
右は百姓・町人に左袒さたんして思うさまに勢いを張れという議論なれども、また一方より言えば別に論ずることあり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
雑報などにおいて各々その左袒さたんする説に応援し、なおまた双方の法律家は各所に演説会を開いて声援をなすなど、敵味方の作戦おさおさ怠りなかったが
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
おまけに異様な汚臭を放つに至つては、公平な眼を以て、決して左袒さたんする事は出来ないよ。我輩、豈敢て形式のみを云はんやだ。成程、天真爛熳は好いさ。
俺の記 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
殊に小寺氏のトーテム説に至っては、あれだけの研究では、にわかに左袒さたんすることの出来ぬのは勿論である。
獅子舞雑考 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
答 それは感覚と云ふ言葉の意味や、意志と云ふ言葉の意味を、はつきり制限して貰はないと、僕にはどちらにも左袒さたん出来ない。あらゆる芸術は感覚的である。
東西問答 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
他から預ってる金を融通しよう、いろ/\それに付いて貴公に頼む事がある、貴公も私の悪事に左袒さたんして、それを喋って意趣返しをしようということもあるまい
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
外国人はおのおのそのみとむるところの政府に左袒さたんして干渉かんしょうたんを開くのおそれありしといわんか。
その意味において彼を一の贖罪者と言おうとするなら、われ等もよろこんでこれに左袒さたんする……。
是れ朝廷の威信をつな所以ゆゑんの道に非ず。皇祖天神照鑒在上。吾説の是非、あに論ずるをもちゐんや。吾に左袒さたんする者は、げきの至るを待ち、叡山えいざんに来会せよ。共に回天の大策を可議者也ぎすべきものなり
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それゆえ著者は、もろもろの革命がまだ引き抜いていない唯一の柱たる死刑台の柱を打ち倒すことに数年来つとめている、各国の殊勝な人々の希願と努力とに、心底から左袒さたんする。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
志賀直哉に向って、日本の知性を押し潰そうとしている力に左袒さたんしているといったならば、彼はどんなに意外に思うであろう。そして、そういう人を憎むだろう。しかし、事実を蔽うことは出来ない。
前進的な勢力の結集 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
もし「そう言うお前は?」とく人があったら、私は即座に、しかも進んでブラームスのために左袒さたんするだろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
わたくしはこの説に左袒さたんしているのであるが、近年神楽や馬鹿囃子ばかばやしもすっかりすたれて、お亀やひょっとこの仮面も玩具屋おもちゃやの店頭には見られぬようになった。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかるに同僚中に直名に左袒さたんする者があって、かえって「闘訟律」に依って許容違法の罪を訴えた。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
一も舅姑の意にもとればすなわちこれを不孝者と称し、世間の人もこれを見て心に無理とは思いながら、己が身に引き受けざることなればまず親の不理屈に左袒さたんして理不尽にその子を咎むるか
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この議は同時に二、三主張するものがあって、是非の論がさかんに起った。しかし後にはこれに左袒さたんするものも多くなって、順承が聴納ていのうしようとした。浜町の隠居信順がこれを見て大いにいかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
僕はこの数篇の文章の中に直言即ち僻見へきけんを献じた。誰か僕の為に自獣樽を発し一杓の酒を賜ふものはないか? 少くとも僕の僻見に左袒さたんし、僻見の権威を樹立する為に一の力を仮すものはないか?
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
第一、斯様な問題に触れて居るのは、多く労働者の左袒さたん者である。
死刑に左袒さたんすべき余地がどこにあるか。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
五つの「ピアノ協奏曲」は無条件にビクターのシュナーベル演奏のものに左袒さたんする。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
れこそ実に国を滅す奴等やつらだ、こんな不文不明な分らぬ乱暴人に国を渡せば亡国は限前に見える、情けない事だとかんがえ始終しじゅう胸に染込んで居たから、何としても上方かみがたの者に左袒さたんする気にならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
もとよりバッハもチャイコフスキーも良いには違いないが、バッハはメニューインやブッシュにさらに良さが見出せるだろうし、チャイコフスキーはやはり私はフーベルマンに左袒さたんしたい。
演奏の点ではコチアンに左袒さたんする人も決して少くない。