山中さんちゅう)” の例文
その褐色かっしょくに黒い斑紋はんもんのある胴中は、太いところで深い山中さんちゅうの松の木ほどもあり、こまかいうろこは、粘液ねんえきで気味のわるい光沢こうたくを放っていた。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それからその山中さんちゅうを大きな町にして、りっぱな家をその中央に出現させて、店を開いたともいえば、酒屋になったともいっている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
騎兵大隊長きへいだいたいちょう夫人ふじん変者かわりものがあって、いつでも士官しかんふくけて、よるになると一人ひとりで、カフカズの山中さんちゅう案内者あんないしゃもなく騎馬きばく。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いつどき、宙にられて、少年が木曾山中さんちゅうで鷲の爪を離れたのは同じ日のゆうべ。七つ時、あいだ五時いつとき十時間である。里数はほぼ四百里であると言ふ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
じつもうすとわしはこの八幡宮はちまんぐうよりももっとふるく、もとはここからさしてとおくもない、とある山中さんちゅうんでたのじゃ。
右内は如何いか御運ごうんが悪いとて、八百石取のお身の上が、人も通わぬ山中さんちゅう斯様こん茅屋あばらやすまっておいでになるのか、お情ないと気の毒そうに上って来ました。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こうなると彼も今はもう大行山中さんちゅうの大盗の頭目として、悪業の足を洗うことはできなかった。いや真面目まじめな業に帰ろうなどとは思ってみることもなくなった。
人間山水図巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山中さんちゅう暦日れきじつなし、彼はこうした仙人生活を続けたのちに、ビルマから印度いんどにまで往ったのであった。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ことに人間にんげんが、足跡あしあとってから、まったく清浄せいじょうとなった山中さんちゅうで、かれらは、あわただしくれていく、うつくしいあきこころからしむごとく、一にちたのしくあそんだのでありました。
深山の秋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
お葉ははり山中さんちゅうに迷っていると信じたからであろう。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「魚子夫人はアルプスの山中さんちゅうめ殺してあると博士の日記に出ています。さあ、これからアルプスへ急ぐのです」
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
文「山中さんちゅういっそ人に逢わぬ方が心安い、眼前に大事を控えた身でなくば、さぞ此の景色もいであろうがな」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もうながあいだやまきて、いろいろの経験けいけんをして、このあたりの山中さんちゅうなら、どんなみちっていれば、どこへいけば、なにがあるということから、またいろいろのばあいにたいして
道の上で見た話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
三左衛門は江戸を出てこの箱根の山中さんちゅうへ来てからもう二十日はつかあまりになっていた。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ある山中さんちゅうにて小屋こやを作るいとまなくて、とある大木の下に寄り、魔除まよけのサンズなわをおのれと木のめぐりに三囲みめぐり引きめぐらし、鉄砲をたてかかえてまどろみたりしに、夜深く物音のするに心づけば
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
長揖ちょうゆう山中さんちゅう隆準公りゅうせつこう
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは上州吾妻郡あがつまごおり四万しまの山口と申す所へ抜けてまいる間道で、猟人かりゅうどそまでなければ通らんみちでございますが、両人ふたりは身の上が怖いから山中さんちゅうを怖いとも思わず
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其家そこへ行って拙者は武辺修行ぶへんしゅぎょうの者でござる、かる山中さんちゅうみちに踏み迷い、かつ此の通り雨天になり、日は暮れ、誠に難渋を致します、一樹いちじゅの蔭を頼むと云って音ずれると、奥から出て来た
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
よもや文治殿はそんなつたない者ではありますまい、よしまたくとしても、生涯山中さんちゅうに隠れひそんで、埋木うもれぎ同然に世を送るような人物とはと肌が違いましょうぞ、左程逃げたき文治殿ならば
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
惠梅比丘尼を山中さんちゅうで殺して家へ帰って来て、又姉さんに厭な事を云い掛けたから、一生懸命に逃げようとすると、長いのを引抜いて姉さんを切った、それで私は竹螺たけぼらを吹いて村方の人を集め
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)