もつぱら)” の例文
旧字:
わたくしは前に磐が電信術を修めたことを記した。しかし終にこれを業とするには至らなかつたらしい。既にして磐は力を仏語を学習することにもつぱらにした。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
遊部は舞をもつぱらにし、ほかひが竹林楽の詞曲を作成する時が来た。其が、宮廷詩人の初まりである。
相聞の発達 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
守、此のぬすびとさぐとらふために、一六五助の君文室ふんや広之ひろゆき、大宮司のたちに来て、今もつぱらに此の事を一六六はかり給ふよしを聞きぬ。此の太刀一六七いかさまにも下司したづかさなどのくべき物にあらず。
巽斎は名は孔恭こうきようあざな世粛せいしゆくと云ひ、大阪の堀江に住んでゐた造り酒屋の息子である。巽斎自身「余幼年より生質軟弱にあり。保育をもつぱらとす」と言つてゐるのを見ると、兎に角体は脾弱ひよわかつたらしい。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
山陽は此年壬辰六月十二日に始て喀血し、翌十三日より著述を整理することに著手し、関五郎をしてもつぱらこれに任ぜしめ、九月二十三日申刻に至つて功をへた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
其つき方は、今日の我々から考へると、古代もやはり今の様に、熟語をつくる修飾語が主部の上に乗りかゝつて居るといふ風に、もつぱら考へられさうである。事実さういふ例も沢山ある。
一人の女に寵をもつぱらにさせじと抑えしは疑あらず。
大久保湖州 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
蘭軒は同一の自由をゆるされてゐて、此に由つて校讐の業にもつぱらにした。人は或は此ことを聞いて、比擬ひぎの当らざるをわらふであらう。しかし新邦の興隆をはかるのも人間の一事業である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
此惟神の観念は、中臣その他のみこともちの上にも移して、考へる事が出来るのであつて、随つて、もつぱら朝廷の神事を掌つた中臣が、優勢を占めるに至つたのは、固より当然の事である。
神道に現れた民族論理 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
己は隠居してから心を著述にもつぱらにして、古本大学刮目こほんだいがくくわつもく洗心洞剳記せんしんどうさつき、同附録抄ふろくせう儒門空虚聚語じゆもんくうきよしゆうご孝経彙註かうきやうゐちゆうの刻本が次第に完成し、剳記さつきを富士山の石室せきしつざうし、又足代権太夫弘訓あじろごんたいふひろのりすゝめによつて、宮崎
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)