寒牡丹かんぼたん)” の例文
と、霜除けをかぶった寒牡丹かんぼたんのように、ぶるぶると、歯の根を噛んでいるのは、今夜の見張をいいつけられた加山、波越の二同心だった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
憶起おもひおこす。……先生せんせいは、讀賣新聞よみうりしんぶんに、寒牡丹かんぼたん執筆中しつぴつちうであつた。横寺町よこでらまちうめやなぎのおたくから三町さんちやうばかりへだたつたらう。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
暗い寒い静かな明方あけがたに、誰れも気づかぬとき、床の間の寒牡丹かんぼたんが崩れ散ったような彼女の死の瞬間が想像され、死顔を見るに堪えなくなっていとまを告げた。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
○東京の牡丹ぼたんは多く上方かみがたから苗が来るので、寒牡丹かんぼたんだけは東京から上方の方へ輸出するのぢやさうな。このほかに義太夫ぎだゆうといふやつも上方から東京へ来るのが普通になつて居る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
駒形こまがたの、静かな町を、小刻みな足どりで、御蔵前おくらまえの方へといそぐ、女形おやま風俗の美しい青年わかもの——鬘下地かつらしたじに、紫の野郎帽子やろうぼうしえり袖口そでぐちに、赤いものをのぞかせて、きつい黒地のすそに、雪持ゆきもち寒牡丹かんぼたん
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
つと割れば笑みこぼれたり寒牡丹かんぼたん
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
寒牡丹かんぼたんの季節
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そこにたたずんでいたが、だいぶ手間どれるので、何故待たせるのかと疑いながら、広縁へ出て、折ふし冬ざれの寺の庭面にわもに、霜除しもよけをかぶって、ほのかなくれないを見せている寒牡丹かんぼたんなど眺めていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さんとしておごらざるこの寒牡丹かんぼたん
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
人形の前にくずれぬ寒牡丹かんぼたん
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
おおいとり互にまみ寒牡丹かんぼたん
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)