あた)” の例文
絶え間なく動く縮緬皺ちりめんじわとなつて見え、そこに素晴しい高さの岩がによつきりとあたかも河を受とめた工合に立つてゐた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
右の果実はその恰好があたかも三味線のばちに似ている所から、この草をバチグサともペンペングサとも称する。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
あたかも政治家中に 豪のためと労働者のためとに呼びかけるものがあつて、市井庶民たる中産階級のためにと叫ぶ存在がないやうなもの恐らくや永遠にできはしまい。
「東京恋慕帖」自序 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
と、あたかも白に向って催眠術でもかけるかのように、白をじっと見つめて言うのだったそうです。
狂女と犬 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
あたかも青い木の葉を食ふ蟲の血が緑色であるやうに、私達の總身の血潮までその濃い緑に變るかと疑はれるばかりだ。思ひ比べると、大阪の宿で見て來た庭の草木の色はなかつた。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
人間にんげんというものは案外あんがいかんじのにぶいもので、自分じぶんたましいからだからたり、はいったりすることにづかず、たましいのみで経験けいけんしたことを、あたかも肉体にくたいぐるみ実地じっち見聞けんぶんしたように勘違かんちがいして
伊東深水氏がその美人画に於いてあたかも髪結の梳手のそれよりも綿密に、髪の線の配列を心得てゐるのも、氏は生来の都会人であり、江戸つ児であつたからその日常的な人間への接近への
その状貌あたかも王妃の臥床を視下みおろしつつ微笑を含みおれるが如くしかり。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
奥地の方にはるかな山並みが盛り上つてゐるほか、何も邪魔物がないことは、あたかもこの場所が地上にたゞ空とこゝだけしかないといふ感じを起させた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
この茎はすなわちハスの本幹と枝とであってあたかもキュウリやナスビなどの幹と枝とに同じものです。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
その状あたかも蜂のに蜂の子が居るような様をなして居ることは諸君がよく知る所でありましょう。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)