ひと)” の例文
台所へ廻ろうか、足をいてと、そこに居るひとの、呼吸いき気勢けはいを、伺い伺い、縁端えんばなへ。——がらり、がちゃがちゃがちゃん。吃驚びっくりした。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あのひとを買うようなもんじゃありませんか? あのひとからあんなにつけつけと輕蔑の色を見せつけられたんだから
らんさまとて册かるるひとの鬼にも取られで、淋しとも思はぬか習慣ならはしあやしく無事なる朝夕が不思議なり
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ええ。それがね。あの人は地道に行きたい行きたい。みんなに信用されていたいいたいと、思い詰めているのがあのひとの虚栄なんですからね。そのために虚構うそくんですよ」
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あたし、今でもはっきり憶えていますが、あの時マニーロフさんのそばに坐っていて、あの方に、⦅まあ御覧なさい、あのひと、なんて蒼い顔色なんでしょう!⦆って言いましたのよ。
お母さんが、ちゃんとこしらえて、食べるひとは机の上の時計を見ていて——
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
……このひと。……御当人、それで巌飛びに飛移って、その鯉をいきなりつかむと、滝の上へ泳がせたじゃありませんか。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しっかりッてこのひと——口へ出したうちはまだしも、しまいには目を据えて、じったと思うと、湯上りの浴衣のままで、あの高々と取った欄干を、あッという間もなく、跣足はだし
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)