大藪おおやぶ)” の例文
三棟みむねある建物のうしろには竹の大藪おおやぶがめぐらしてあって、東南の方角にあたる石垣いしがきの上には母屋もやの屋根が見上げるほど高い位置にある。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大藪おおやぶのところに倒れているのをみつけた者があっていま担ぎこまれて来たのだが、かなり重傷のようだ、ひとまず由紀をつれ戻さなければなるまい」
日本婦道記:藪の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なわて大藪おおやぶに風が立ちそめて来た。風につれて、小禽ことりが立つ。しかしまだその鳥影も見えぬほど朝は暗いのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の大藪おおやぶの陰を通る時、一匹の狐物陰より現はれて、わが車の上に飛び乗り、さかなとって投げおろすに。しゃツ憎き野良狐めト、よくよく見れば年頃日頃、憎しと思ふ聴水なれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
朝三チョウサンノ食秋風シュウフウクとは申せども、この椎の実とやがて栗は、その椎の木も、栗の木も、背戸の奥深く真暗まっくら大藪おおやぶの多数のくちなわと、南瓜畑の夥多おびただしい蝦蟇がまと、相戦うしょうに当る、地境の悪所にあって
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八百年来の大藪おおやぶだ。根こそぎ焼き払わねば、新しい若草の芽はえ出でぬ。……この山一つとそち達はいうが、信長は、叡山ひとつの処置に逆上しておるのではない。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さればこそ山蛭やまびる大藪おおやぶへ入ろうという少し前からその音を。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「では、べつな方へ」と転進すれば、そこでもまた行く手にあたって、カラぼりがあり針金のさくがあり、小道を探ッてみてもソギ竹だらけで歩けもしない大藪おおやぶの闇だとある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)