大欅おおけやき)” の例文
今しがた、一角が立っていたあたりの大欅おおけやきが異臭を放った。刹那せつな、すべての姿が一度に大地へうッ伏してしまった。人の暴を超えた自然の暴力。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
村松町より一里をへだつる中蒲原なかかんばら郡橋田村大字おおあざ西四つ屋、曹洞宗泉蔵寺大門先なる関谷安次宅地内に、数百年を経たる高さ五間、幹の周囲約一丈の大欅おおけやきあり。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「これです、消音式しょうおんしきで無発光のピストルなんです。笹木邸の大欅おおけやき洞穴ほらあなに仕かけてあったんです」といって真黒な茶筒ちゃづつのようなものを、ズシリと机の上に置いた。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ただ一叢ひとむらの黄なる菜花なのはなに、白い蝶が面白そうに飛んで居る。南の方を見ると、中っ原、廻沢めぐりさわのあたり、桃のくれないは淡く、李は白く、北を見ると仁左衛門の大欅おおけやきが春の空をでつゝ褐色かっしょくけぶって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
欄干に一枚かかった、朱葉もみじひるがえらず、目の前の屋根に敷いた、大欅おおけやきの落葉も、ハラリとも動かぬのに、向う峰の山颪やまおろしさっときこえる、カーンと、添水がかすかに鳴ると、スラリと、絹摺きぬずれの音がしました。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう先祖以来の大欅おおけやきに囲まれた家の外へ走り出して、千曲川の上流に沿う断崖きりだしの道を——その故郷ふるさとの少年頃から馴れた道を——奔流の流るる方へと、ただまっしぐらに、顧みもせず
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仁左衛門さんとこ大欅おおけやきが春の空をでて淡褐色たんかっしょくに煙りそめる。雑木林のならが逸早く、くぬぎはやゝ晩れて、芽をきそめる。貯蔵かこい里芋さといもも芽を吐くので、里芋を植えねばならぬ。月の終は、若葉わかば盛季さかりだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
おまけにあすこの大欅おおけやきへ、さッきの雷が落ちたものとみえまして、黒装束の者が二、三人、その木の下にたおれていますし、時雨堂の中はといえば、そこも、切ッつ切られつした返り血と
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)