夜涼やりょう)” の例文
種彦は遠くもあらぬ堀田原ほったわらの住居まで、是非にもお供せねばという門人たちの深切しんせつをも無理に断り、夜涼やりょうの茶屋々々にぎわう並木の大通おおどおり横断よこぎって
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すでにして杯は廻りしょく夜涼やりょうにさやぎ、人々はこの二日間に初めての歓語かんごとくつろぎの中に各〻酔いを覚えていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はだが冷えびえと夜涼やりょうを覚えるようになって、やれやれと打ちくつろいで居る心持。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
小樽おたるに名高きキトに宿りて、夜涼やりょうに乗じ市街を散歩するに、七夕祭たなばたまつりとやらにて人々おのおの自己おのが故郷のふうに従い、さまざまの形なしたる大行燈おおあんどう小行燈に火を点じ歌いはやして巷閭こうりょ引廻ひきまわせり。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さまたげのない額堂の席を、夜涼やりょう山嵐さんらんをほしいままにして、連歌の競詠きょうえいを試みているのかと思うと、闇の中に、眼ばかり光らしている武士たちの顔には、みじんもそんな風流気は見えず
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)