こわ)” の例文
旧字:
襖越ふすまごしに気をくばっていると隣室には乾雲を取り巻く同勢十五、六人集まっているようすで、何かこわだかに話し合って笑い興じている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
少将のこの返歌はよろしくもないが、低く忍んで言うこわづかいなどを優美に感じる夕霧であった。宮へいろいろとお取り次ぎもさせたが
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と同時にこんな張りのある訥弁とつべんこわいろが、あとから耳許へ聞こえてきた、木の葉の合方、山嵐や谺の鳴物も聞こえてきた
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
みごとの武者ぶりを見送りて、こわづくろいしていかめしき中将の玄関にかかれる山木は、幾多の権門をくぐりなれたる身の、常にはあるまじくたん落つるを覚えつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
お父様が、せがれは子供同様であるから頼むと挨拶をなさると、鰐口は只はあはあと云って取り合わない。そして黙ってお父様の僕に訓戒をして下さるのを聞いていて、跡でこわいろをつかう。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
思はずこわだかに負ましよ負ましよと跡を追ふやうに成りぬ、人波にもまれて買手もまなこくらみし折なれば、現在後世ごせねがひに一昨日おとつひ来たりし門前も忘れて、簪三本七十五銭と懸直かけねすれば
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ある晩さんざつないで下りてきたかんさんがいった。事実「両国八景」を目一杯にやって、そのあとこわいろまでやって下りてきたこの人だった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
こわづかいに貫目があると思われた。その他の人はおくしてしまったようで、態度も声もものにならぬのが多かった。
源氏物語:08 花宴 (新字新仮名) / 紫式部(著)
控えめにせず物なれたふうに言い続けることに反感は起こりながらも、この人の田舎いなか風でなく上流の女房生活をしたらしい品のよいこわづかいに薫は感心して
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
誰のこわいろも使えないらしく、誰の口跡こうせきにも似ていなかったけれど、芝居の台詞せりふであることはすぐ分った。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
こわづかいをよくして、初め終わりをよく聞けないほどにして言えば、作の善悪を批判する余裕のないその場ではおもしろいことのようにも受け取られるのである。
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あまりに似合わしくない代わり役であったが、つたなくもないこわづかいで弁はこの役を勤めた。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)