古草鞋ふるわらじ)” の例文
隠居した後も、道を行きつつ古草鞋ふるわらじを拾って帰り、水に洗い日にさらして自らきざみ、出入の左官に与えなどした。しかし伊兵衛は卑吝ひりんでは無かった。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
青、黄に、朱さえ交った、麦藁むぎわら細工の朝鮮帽子、唐人笠か、尾のとがった高さ三尺ばかり、なまずの尾に似て非なるものを頂いて。その癖、素銅すあか矢立やたて古草鞋ふるわらじというのである。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なだらかな傾斜となって、霧の中へ、するすると登っている、登山客の脱ぎ捨てた古草鞋ふるわらじが、枯ッ葉のように点を打って、おのずと登り路のしおりとなっている、路傍の富士薊ふじあざみの花は
雪中富士登山記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
今日では小石を石の鳥居とりいの上に乗せて見ようとし、または沓掛くつかけといって、馬のくつ古草鞋ふるわらじを投げあげるようにもなっており、子どもや若い者のなぐさみくらいにしか考えられておるまいが
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
高〻たかだかとズボンをまくり上げて、古草鞋ふるわらじを着けさせられた晩成は、何処どこへ行くのだか分らない真黒暗まっくらやみの雨の中を、若僧にしたがって出た。外へ出ると驚いた。雨は横振よこぶりになっている、風も出ている。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
二男三男は冷飯くらい、四男五男は拾い手もない古草鞋ふるわらじ
七日七夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
古草鞋ふるわらじを投げたり、石をほうったりして
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)