卯辰山うたつやま)” の例文
欄にりて伸上れば半腹なる尼のいおりも見ゆ。卯辰山うたつやま、霞が峰、日暮ひぐらしの丘、一帯波のごとく連りたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
卯辰山うたつやまの山のにあって、霞をまとい、霧を吸い、月影に姿を開き、雨夜あまよのやみにもともし一つ、百万石の昔より、往来ゆききの旅人に袖をあげさせ、手をかざさせたものだった、が、今はない。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
胎毒たいどくですか、また案じられた種痘うえぼうそうの頃でしたか、卯辰山うたつやまの下、あの鶯谷うぐいすだにの、中でも奥の寺へ、祖母に手をひかれては参詣をしました処、山門前の坂道が、両方森々しんしんとした樹立こだちでしょう。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
苦笑にがわらひをしてまた俯向うつむいた……フとくと、川風かはかぜ手尖てさきつめたいばかり、ぐつしよりらしたあたらしい、しろ手巾ハンケチに——闇夜やみだとはしむかうからは、近頃ちかごろきこえたさびしいところ卯辰山うたつやまふもととほる、陰火おにび
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)