勧工場くわんこうば)” の例文
旧字:勸工場
両国の広小路に沿うて石を敷いた小路には小間物屋袋物屋煎餅屋など種々なる小売店の賑ふ有様、まさしく屋根のない勧工場くわんこうばの廊下と見られる。
路地 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
芝居や勧工場くわんこうばがあつて、堺では一番繁華な所になつて居るのです。小学校の横を半町も東へ行きますと寺町てらまちへ出ます。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
今、勧工場くわんこうばのある奥の方にあつた。そこの主人も面白い男だつた。其処には硯友社の同人はな出かけて行つた。
紅葉山人訪問記 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
伯父はそれを陶器の勧工場くわんこうばにする積で、既に清水焼の四五の主なる陶器店との間に約束が成り立つて居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
愚園ぐゑんの方は小さな浅草の花屋敷で、動物の外に一寸法師や象皮ざうひ病で片手が五十封度ポンドの重量のある男の見世物などがあり、勧工場くわんこうばや「随意小酌せうしやく」とはり出した酒亭しゆていもある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
上潮に末広の長い尾を曳く川蒸汽は、仲々異なものであつた。銀座の通り、新橋のステイシヨン、勧工場くわんこうばにも幾度いくたびか入つた。二重橋は天子様の御門と聞いて叩頭おじぎをした。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
れも其辺そこら勧工場くわんこうばで買へない高料たかい品を月に一遍位はきつと持つて来た子。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
今は何処に家を持つて、お内儀かみさんも御健勝おまめか、小児ちツさいのも出来てか、今も私は折ふし小川町の勧工場くわんこうば見物ゆきまする度々たびたびもとのお店がそつくりそのまま同じ烟草店たばこみせ能登のとやといふに成つてゐまするを
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
勧工場くわんこうばのはいりくち
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
宗教画にいろどられた高い門をくゞつてにぎやかな街へ出た。朴氏は勧工場くわんこうばへ私をれて行つたが、私は汽車賃がいづれ又追加される様な気がして莫斯科モスコオの記念の品も買ふ気にはなれなかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
其処の角には勧工場くわんこうばと云つて何品なんでも売る所があるし、右へ行くと三丁目の電車、左へ行くと赤門の前——赤門といへば大学のこつてすよ、それ、日本一の学校、名前位は聞いた事があるんでせうさ。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
手荷物は高い高い上の金網の上に皆載せられてあつた。浦潮斯徳ウラジホストツク勧工場くわんこうばで買つて来た桃色の箱にはひつた百本いりの巻煙草たばこと、西伯利亜シベリアの木で造られた煙草入たばこいれとが机の上に置いてある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)