凝然ぢつ)” の例文
液汁みづしたばかりにやちつたえてえとも、そのけえしすぐなほつから」勘次かんじはおつぎを凝然ぢつてそれからもういびきをかいて與吉よきちた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
○こんな事を考へて、恰度秒針が一囘轉する程の間、私は凝然ぢつとしてゐた。さうして自分の心が次第々々に暗くなつて行くことを感じた。
歌のいろ/\ (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
私は、一体どんな顔をして何んな場合に嘆いたものか、笑つたものか、気分も表情も想像することは不可能であつた。いつも、いつまででも凝然ぢつとしてゐるばかりの私は木兎であつた。
天狗洞食客記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「さうかい、つてたね、まああがりな」内儀かみさんはランプを自分じぶんあたまうへげて凝然ぢつくびひくくしておつぎの容子ようすた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
菊池君は矢張、唯一人自分の世界に居て、胡坐あぐらをかいた膝頭を、兩手で攫んで、凝然ぢつとして居る人だ。……………
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
凝然ぢつとしたしづかなつきいくらかくびかたむけたとおもつたらもみこずゑあひだからすこのぞいて、踊子をどりこかたちづくつての一たんをかつとかるくした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
初は、餘念の起るのを妨げようと、凝然ぢつと眉間に皺を寄せて苦い顏をしながら讀んで居たが、十遍、二十遍と繰返してるうちに、何時しか氣も落着いて來て眉が開く。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
初は、余念の起るのを妨げようと、凝然ぢつ眉間みけんに皺を寄せて苦い顔をしながら読んで居たが、十遍、二十遍と繰返してるうちに、何時しか気も落着いて来て眉が開く。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
野村は力が抜けた様に墨を磨つて居たが、眼は凝然ぢつと竹山の筆の走るのを見た儘、種々いろんな事が胸の中に急がしく往来して居て、さらでだに不気味な顔が一層険悪になつて居た。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
火箸で煖爐ストーブの中を掻𢌞しても見た。窓際に行つて見た。竹山は凝然ぢつと新聞を讀んで居る。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
肇さんは起き上ツて、凝然ぢつと其友の後姿を見送ツて居たが、浪の音と磯の香に犇々と身を包まれて、寂しい樣な、自由になツた樣な、何とも云へぬ氣持になツて、いひ知らず涙ぐんだ。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ト、一日手を離さぬので筆が仇敵かたきの樣になつてるから、手紙一本書く氣もしなければ、ほんなど見ようとも思はぬ。凝然ぢつとして洋燈ランプの火を見つめて居ると、斷々きれ/″\な事が雜然ごつちやになつて心を掠める。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
で、自分は、手づから一脚の椅子を石本に勸めて置いて、サテ屹となつて四邊あたりを見た。女教師は何と感じてか凝然ぢつとして此新來の客の後姿に見入つて居る。他の三人の顏色は云はずとも知れた事。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
で、自分は、手づから一脚の椅子を石本に勧めて置いて、サテ屹となつて四辺を見た。女教師は何を感じてか凝然ぢつとして此新来の客の後姿に見入つて居る。他の三人の顔色は云はずとも知れた事。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
竹山が唯一人、凝然ぢつと椅子に凭れて新聞を讀んで居る。一分、二分、……五分! 何といふ長い時間だらう。何といふ恐ろしい沈默だらう。渠は腰かけても見た、立つても見た、新聞を取つても見た。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)