内裏雛だいりびな)” の例文
響応ごちそうになってると、女がさかずきをくれと云うので、やろうとしているうちに、二人の女の子はになって飛ぶし、女は内裏雛だいりびなのようになったのだよ
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
伊豆伍夫婦がれこんで、似合いの夫婦だ、内裏雛だいりびなだと、うつくしいものを二つ並べる興味に、まず親達のほうが騒ぎ出した、と前にいった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
幸子は内裏雛だいりびな女雛めびなの頭へ瓔珞ようらくの附いた金冠を着せながら、悦子の甲高い声がひびいて来るのを聞いていたが
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あははは、あんた方御夫婦は、まるで内裏雛だいりびなみたいに、貧乏しながら超然ちょうぜんと澄まし込んでいるからいけない。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはいうところの内裏雛だいりびな型で、男の方は衣冠束帯、女の方は十二単衣の、艶麗を極めたものであった。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
内裏雛だいりびな、五人ばやし、左近さこんの桜、右近うこんたちばな雪洞ぼんぼり屏風びやうぶ蒔絵まきゑの道具、——もう一度この土蔵の中にさう云ふ物を飾つて見たい、——と申すのが心願でございました。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一対いっつい内裏雛だいりびなのような……と言い出すものがあると、いやそうでない、ああいう殿様に限って、奥方が醜女ぶおんな嫉妬やきもちが深くて、そのくせ、殿様の方で頭が上らなくて
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
三樹八郎は金をしまって立上った。ひどい貧乏の中にたった一組だけ残った内裏雛だいりびなと、たちばな、桜、雪洞ぼんぼりが二つという、さびしい雛壇に燈を入れる、——昔を思うと夢のようだ。
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
十ぐらいになる内裏雛だいりびなのような品のいい男の子が藤納戸の紋服に手遊びのような大小を差してお供もなく、チョコチョコ駆け出してきた。ヒョイとその子の上へ目を落とすと
円太郎馬車 (新字新仮名) / 正岡容(著)
中京美人の輸入が花柳界を風靡ふうびした——が、あらそわれないのは時代の風潮で、そうしたかたむきは、京都を主な生産地としている内裏雛だいりびなにすら、顔立ち体つきの変遷が見られる。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
女が長いきぬすそさばいているようにも受取られるが、ただの女のそれとしては、あまりに仰山ぎょうさんである。雛段ひなだんをあるく、内裏雛だいりびなはかまひだれる音とでも形容したらよかろうと思った。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こればかり焼け残りたりといふ内裏雛だいりびな一対、紙雛かみびな一対、見にくく大きなる婢子様ほうこさま一つを赤き毛氈もうせんの上に飾りて三日を祝ふ時、五色の色紙を短冊たんざくに切り、芋の露をすずりりて庭先に七夕を祭る時
わが幼時の美感 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
所が、杉江の眼が逸早いちはやく飛んだのは、一番上段にある内裏雛だいりびなに注がれた。そのうち女雛の方が、一本の長笄ながこうがい——それは、白鼈甲に紅は鎌形の紋が頭飾りになっているのを、抱いていたからである。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それは広巳が八幡祠頭で見たそっくりの鳥であった。広巳はぞっとして女のほうを見た。女は小さくなって恰度ちょうど内裏雛だいりびなのような姿を見せていた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
机上の白い手が、無意識にもてあそぶのは、父の故郷に近い博多はかたみやげの、風雅な、ちいさな、一対の内裏雛だいりびな
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
桃吉ももきち御殿ごてんとよばれたほど豪華な住居をつくって住んだりしたはてが、負債のために稼がなければならないという口実で、彼女がきていた内裏雛だいりびな生活から、多くの異性に接触しやすい
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
東へ向っていたのをグルリと西へ向き返って見ると、高原の鼻の先にお内裏雛だいりびなのおきさきにそっくりの衣紋えもん正しい形をしたのが小仏山で、駒木野の関所から通る小仏峠道はその上を通ります。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まあ、申さば、内裏雛だいりびな女雛めびなの冠の瓔珞やうらくにも珊瑚さんごがはひつて居りますとか、男雛をびな塩瀬しほぜ石帯せきたいにも定紋ぢやうもんと替へ紋とが互違ひにひになつて居りますとか、さう云ふ雛だつたのでございます。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「東海道を内裏雛だいりびなと一緒に……これはどうでもしまいには……」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
渓のむこうもじぶんの立っている周囲まわりも、赤い毛氈もうせんを敷いた雛壇ひなだんのような壇が一面に見えて、その壇の上には内裏雛だいりびなを初め、囃子はやし押絵おしえの雛がぎっしり並んでいた。
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
汪克児オングル (姫を押しやって成吉思汗ジンギスカンの隣りへ坐らせる)さ、花嫁さまはここへ。なにもそう恥かしがることはない。ようよう、似合いの御夫婦、内裏雛だいりびな! (手を拍つ)
お園改め園絵と並んで内裏雛だいりびなと言われたくらい、そのお園にちっとも見劣りがしないどころか、却って、男だけにきりっとしていて立ちまさって見えるほどの名打ての美男だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
御身分お人柄その他なにから何までまことにお似合いの内裏雛だいりびな……こちらのような水茶屋女なぞどうなっても、お艶は栄さまを生命かけてお慕い申せばこそ、その栄三郎さまの栄達
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
内裏雛だいりびなだというので、美しいものを二つ並べる興味に、親達のほうが騒ぎ出した。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)