位牌堂いはいどう)” の例文
位牌堂いはいどうの整理もどうなっているか。数えて来ると、何から手を着けていいかもわからないほど種々雑多な事が新住職としての彼を待っていた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
位牌堂いはいどうの暗い畳廊下から、一人水際立った妖艶うつくしいのが、突きはせず、手鞠を袖に抱いたまま、すらすらと出て、卵塔場を隔てた几帳窓きちょうまどの前を通る、と見ると
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
参籠所から位牌堂いはいどう、位牌堂から経堂きょうどう中堂ちゅうどう、つづいて西谷にしだに檀林だんりん、そこから北へ芬陀梨峯ふんだりみねへ飛んで奥の院、奥の院から御供寮ごくりょう、それから大神宮に東照宮三光堂と
少し汚点しみになった跡が今でも判りますが、押入にも、納戸なんどにも、床下にも、天井裏にも、須弥壇しゅみだんの下にも、位牌堂いはいどうにも、へっついの下にも、千両箱などは影も形もありません。
須弥壇しゅみだんの横からどんどん奥へぬけると、かって知ったもののように、がらがらとそこの網戸をあけながら位牌堂いはいどうの中へはいって、ぴたりとまた戸を締めきりました。
仏餉ぶっしょう献鉢けんばち、献燈、献花、位牌堂いはいどう回向えこう大般若だいはんにゃの修行、徒弟僧の養成、墓掃除そうじ、皆そのとおり、長い経験から、ずいぶんこまかいところまでこの人も気を配って来た。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
潮がいたようになってごッた返す中を、仏様を振廻しちゃあ後へ後へと退さがって、位牌堂いはいどうへ飛込んで、そこからお前壁の隅ン処を突き破って、墓原へ出て田圃たんぼへ逃げたぜ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのおりに、墓地での倒れ木のお話も出ましてね、かねて、村方でも相談のあった位牌堂いはいどう普請ふしんにあの材木を使いたいがどうかと言って、内々ないないわたしまでその御相談でした。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「どれ、位牌堂いはいどうの方へ御案内しましょう。おそかれ早かれ、こういう日の来ることはわたしも思っておりました。神葬祭のことは、あれは和宮かずのみやさまが御通行のころからの問題ですからな。」
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
万一その火が五百二十からのかやをのせた屋根へでも燃え抜けたが最後、仏壇や位牌堂いはいどうはもとより、故伏見屋金兵衛が記念として本堂の廊下に残った大太鼓も、故蘭渓らんけいの苦心をとどめた絵襖えぶすま
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お寺は精舎しょうじゃというくらいのところですから、本堂でも庭でも位牌堂いはいどうでも清潔にしておかねばなりません。それには住持の役をつとめるものがまずからだも心も清くないことには、つとまりません。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これが馬籠のお寺かという顔つきで、久しぶりに一緒になったお粂や宗太を案内に、太鼓のぶらさがった本堂の方へ行き、位牌堂いはいどうの方へ行き、故人蘭渓らんけいの描いた本堂のそばの画襖えぶすまの方へも行った。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)