いさか)” の例文
旧字:
この何年か、毎日のようにくりかえしてきたいさかいを、こんなところでまた巻きかえすのかと、阿曽はうんざりするより情けなくなった。
白雪姫 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「——お奈加なか、お奈加。なにをまた日吉とわめき合うているのだっ。見ッともない。自分の子といさかって、泣いているたわけがあるか」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつか、兄夫婦の間に始まるであろういさかいの余波が、彼女にどのような惨苦をもたらすか、知れたものではないのである。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その極り悪そうなもいつしかせて、その後は、昇に飽いたのか、珍らしくなくなったのか、それとも何かいさかいでもしたのか、どうしたのか解らないが、とにかく昇が来ないとても、もウ心配もせず
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「では人間はどんなものと、いさかいするのでございましょう?」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そんないさかいはもうお互いに捨てたんだ。俺は、あの親友にすがって、これから江戸へ行って真面目に身を立てるつもりだ」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、十四郎と喜惣とは、時江の悲嘆には頓着なく、事もあろうに、肉の取り前からいさかいを始めた。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
いさかいは止めよう、つまらない」
怪しの館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「今、従者たちが、いさかい出したのが、倖せじゃ。この隙に、あの者たちの眼をのがれ、心あてまで、逃げのびましょう」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そんなものは、ありゃせんぞ」と白痴特有の、表情のない顔を向けて、喜惣は、新しく訪れた観念のために、前のいさかいを忘れてしまった。そして、仔鹿かよを結わえた鉄棒を、再び廻しはじめながら
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「なんぞ、いさかいでも遊ばしましたか。——所詮しょせん女子おなごは女子です。ご気色を直して、晩にまた、一しゃくなされませ。邦通がまた、猿楽さるがくでもお目にかけましょう」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三平のどす声と、お島の癇性な声が、また、ゆうべよりも烈しく、何か、いさかい出している。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
古参の者達は、またいさかいにならねばよいがと案じていたが、大きな声が洩れてくる様子もないので、さっそく武蔵に宛てて指定してやる二度目の場所や日取を膝ぐみで相談していた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫妻のいさかいと他人には聞えたであろう。——しかし真相はいつも、忠興の愛する余りに原因があった。また、彼女も良人の熱愛に負けない愛に燃やされるところから起る現象であった。
「いつぞや、代官所の衆が、捕手を連れて、ひどい家探しをやったそうでな。何でもその時、役人を相手に、えらいいさかいをやったというから、そんなことで、逆上したんじゃあるめえか」
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
京へ参る道中で大勢の仲間の者が、ちと面倒ないさかい事を起しましてな、うるさくてかないません。半月ほど、ここに避けて、旁〻かたがた、ちと養生ようじょうしていたいと存じますが、どこか空いている一間を
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『長屋じゃの、若侍どもが、何かいさかいを初めたか。……宿直とのいは誰じゃ』
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
他郷たきょうっていさかいすべからず、ある争いもかならず不利、——ということわざは、むかしの案内記あんないきなどにはかならずしるしていましめてあることだ。まして、相手が悪そうだから、卜斎ぼくさいも悪びれないで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちには、風のふき廻しも変るだろう——そう気永に考えて、きょうも半日、蟻のいさかいを眺めていたところです。——せっかくですが、お取りなしの事なら、どなたか、余人にお頼みください。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)