不慥ふたしか)” の例文
來年らいねんになれば、やすさんのはううか都合つがふしてあげるつて受合うけあつてくだすつたんぢやなくつて」といた。小六ころく其時そのとき不慥ふたしか表情へうじやうをして
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかし己はこんな事を書く積りで、日記をけたのではなかった。目的の不慥ふたしかな訪問をする人は、ことさらに迂路うろを取る。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
欲求は漠然にして不正確、希望は確乎かっことして正確である。あたかも男女間の思慕が初め欲求たる間は不慥ふたしかなれど、ち進みて婚約成立となりて初めて希望と化して、確実になるが如くである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
今はすべてが過去に化してしまった。再び眼の前に現れぬと云う不慥ふたしかな点において、夢と同じくはかない過去である。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
正確をむねとする几帳面きちょうめんな学者の記憶でも、記憶はこれほどに不慥ふたしかなものである。「思い出す事など」の中に思い出す事が、日をれば経るに従って色彩を失うのはもちろんである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「タイムスはたしかだが、僕のはすこぶる不慥ふたしかだよ。これからがいよいよ巧妙なる詐偽に取りかかるのだぜ。よく聞きたまえ月十円ずつで六百円なら何年で皆済かいさいになると思う、寒月君」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分が中途で失敗しくじったから、せめて弟だけは物にしてやりたい気もあるので、この千円が尽きたあとは、またどうにか心配もできようしまたしてくれるだろうぐらいの不慥ふたしかな希望を残して
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分じぶんなかちゆうと失敗しくじつたから、めて弟丈おとうとだけものにしてやりたいもあるので、このゑんきたあとは、またうにか心配しんぱい出來できやうしまたしてれるだらうぐらゐ不慥ふたしか希望きばうのこして、また廣島ひろしまかへつてつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
小六はその時不慥ふたしかな表情をして
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)