一諾いちだく)” の例文
恵瓊えけいの小舟は矢のように帰って行った。彼はすぐに秀吉に会って、宗治の一諾いちだくを報告し、また馬をとばして西軍の岩崎山へ急いだ。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
磔茂左衛門はりつけもざえもんは上州の義民ぎみんであります。古来上州人は義に篤い。一諾いちだくを重んじて命を捨てることを何とも思わない。私はその上州人であります。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
のちに聞けば彼は相沢にいしとき、余が相沢に与えし約束を聞き、またかの夕べ大臣に聞こえ上げし一諾いちだくを知り、にわかに座よりおどり上がり、面色さながら土のごとく
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
お夏の一諾いちだくおもんぜしめ、火事のあかりの水のほとりで、夢現ゆめうつつの境にいざなった希代の逸物いちもつは、制する者の無きに乗じて、何と思ったか細溝を一跨ひとまたぎに脊伸びをして高々と跨ぎ越して
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
既に藩許を得るもいまだ旅券を得ず、彼ごう遅疑ちぎせず、曰く、「一諾いちだく山よりも重し、俸禄捨つべし、士籍なげうつべし、国に報ゆるの業、何ぞ必らずしも区々常規の中に齷齪あくさくするのみならんや」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
小山の一諾いちだくに中川もようやく心を安めたり。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
と、無造作に、一諾いちだくさせて、使者のふたりは、得たりとばかり——今、縄生なおうの陣へ、せ帰って、来たわけだった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不肖ながら、その大任を一諾いちだくいたした以上は、信長は、く近日にも、その実現を考えておる。——なんで将軍家のお館など建てておるいとまを持とうや。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一諾いちだくをゆがめぬ節義など——人道的光彩の発露をその実践者に見るたびに、わが事のように、絶讃し感涙し、その善行をたたえてやまない底のものを持っている。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、無血開城の大事を、ほとんど一諾いちだくにひとしいことばをもって、光秀にこたえているのだった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と会心の笑みを洩らした自斎は、そこで、明快な一諾いちだくを与えた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(ばかな、武士の一諾いちだくを、みずから裏切れようか)
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)