一刀ひとかたな)” の例文
いつもかかることのある際には、一刀ひとかたな浴びたるごとく、あおくなりてすがり寄りし、お貞は身動みうごきだもなし得ざりき。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なにしろ一刀ひとかたなとはまをすものの、むなもとのきずでございますから、死骸しがいのまはりのたけ落葉おちばは、蘇芳すはうみたやうでございます。いえ、はもうながれてはりません。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一刀ひとかたなとて怨むこともかなわぬとは、神仏にも見離されしか、かくの如き尾羽打ち枯した身の上になり、殊に盲目の哀しさには、口惜くちおしくも匹夫ひっぷ下郎の泥脛どろずねに木履を持って
津田は一刀ひとかたなで斬られたと同じ事であった。彼は斬られたあとでその理由をいた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何しろ一刀ひとかたなとは申すものの、胸もとの突き傷でございますから、死骸のまわりの竹の落葉は、蘇芳すほうみたようでございます。いえ、血はもう流れては居りません。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
松脂をつぎ込んでから一日たって居るので粘って抜けない、脇差の抜けませんのにいら立つ処を一刀ひとかたなバッサリと骨を切れるくらいに切り込まれて、むこうへ倒れる処を
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
振向く処を一刀ひとかたな、向うづきに、グサと突いたが脇腹で、アッとほとんど無意識に手できずおさえざまに、弱腰を横に落す処を、引なぐりにもう一刀ひとたち、肩さきをかッと当てた、が
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あゝ親として手前を己が殺すと云うのは実に情ない、手前己を親と思わずに一刀ひとかたなでも怨んで呉れ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
音羽は女ながらもたんすわったもので、今腰が抜けて坐ってる藤六を振向きながら一刀ひとかたなあびせる。
一刀ひとかたなあびせたから惣次郎は残念と心得て、脇差の鞘ごと投げ付けました、一角がツと身をかわすと肩の処をすれて、すゝき根方ねがたへずぽんと刀が突立つったったから、一角はのりを拭いて鞘に収め
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)