あゝ私は、夜昼の差別も忘れた鬱屈のランプの影で、妄想の捕虜となりつゞけてゐた浅間しい私は、遂に、ラア・マンチアの工夫に富める紳士ドン・キホーテを嗤ふことの出来ない「勇敢なる騎士」であつた。
鬼の門 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)